ネット炎上・ゴシップ・メディアの過熱報道などを今風に描く映画『白ゆき姫殺人事件』

先日一時帰国した帰り、機内で邦画『白ゆき姫殺人事件(The Snow White Murder Case)』(2014・米国未公開)を観ることができました。

湊かなえ原作

この映画は、OL 殺人事件をベースに、ネット炎上やゴシップ、メディアの加熱報道などが複雑に絡み合ったサスペンスです。

国定公園・しぐれ谷で誰もが認める美人OLが惨殺された。全身をめった刺しにされ、その後火をつけられた不可解な殺人事件を巡り、一人の女に疑惑の目が集まる。彼女の名前は城野美姫。同期入社した被害者の三木典子とは対照的に地味で特徴のないOLだ。テレビ局でワイドショーを制作するディレクター・赤星雄治は、彼女の行動に疑問を抱き、その足取りを追いかける。取材を通じてさまざまな噂を語り始める、美姫の同僚・同級生・家族・故郷の人々。「城野さんは典子さんに付き合っていた人を取られた……押さえていたものが爆発したんだと思う、あの事件の夜」「小学生の頃、よく呪いの儀式をやってたって。被害者の殺され方が呪いの儀式と同じでしょう?」「犯人です、間違いありません!」。テレビ報道は過熱し、ネットは炎上。噂が噂を呼び、口コミの恐怖は広がっていく。

映画『白ゆき姫殺人事件』作品情報 2014年3月29日公開!

さまざまな人々の証言を元に進んでいく展開が、なんだか小説『告白』に似てると思ったら、なんと『白ゆき姫殺人事件』の原作者も同じ、湊かなえさんでした!

映画と原作の違い

Kindle 版が出ているので、アメリカに戻ってきてからさっそく原作を読んでいるのですが、原作では赤星雄治はワイドショーのディレクターではなく週刊誌の記者という設定に。確かに本だったら「週刊誌」の方が、映画だったら「ワイドショー」の方が合いそうです。本も映画もメディアの体裁がリアルで、ネットが炎上していく様子もすごく現実味があります。

湊さんはこの本を執筆したきっかけについて以下のように語っています。

「ちょうど『告白』の映画がヒットした時、知らない間に近所の人や地元の知り合いが、私についての取材を受けていたんです。その時は、みなさんが良いことばかりを言ってくださったから良かったけど、もしこれが殺人事件に関わるなど悪い内容だったとしたら、何を言われるだろうと思って、すごく怖くなりました。また、“自分が思う自分”と“人が思う自分”は、どれくらいかけ離れているんだろうと考えたりもして。普段、友達同士で思い出話をしていても、覚えているポイントとかが違ったりするし、よく知っている人同士でも、同じ画が見えてない場合ってあるのかなと思ったんです」。

湊かなえ、「告白」や「白ゆき姫殺人事件」執筆の裏話を語る! | ニュースウォーカー

なんと映画『告白』のヒットによって注目されたことが原点だったんですね〜

そこから殺人事件を連想し、事件をネット炎上させる燃料として女性特有の嫉妬感情に目を付けていらっしゃるところが、湊さん恐れ入ります。

私は今まで「○○殺人事件」というタイトルの小説を書いたことがなかったので、まずそれをやってみたいと思いました。次に考えたのは、”殺人”というのは人の息の根を止めることだけじゃない、広い意味での”殺人”ということもありえるのでは、ということ。その場合、絡んでくるのは嫉妬だと思い、舞台を化粧品会社にしました。女性が多くて、美を追求する商品を扱う職場なので。そこで連想したのが『白雪姫』です。童話ですが美しさへの羨望と嫉妬という、いつの時代も変わらない女性の心の根底にあるものが描かれている。美の象徴みたいな存在で、みんなが知っているきれいなお姫様といえば、白雪姫ですし。

『白ゆき姫殺人事件』湊かなえ|担当編集のテマエミソ新刊案内|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー

媒体も使い分けられていた

しかも、原作は前半が人々の証言、後半が SNS や週刊誌の記事という構成になっているのですが、それぞれ紙媒体とウェブ媒体で別々に連載されていたものだったそう。斬新で面白すぎます。

この小説は「小説すばる」とWEB文芸の「レンザブロー」で連載したものをまとめたものですが、最初にいただいたのが「ふたつの媒体で連動した連載を」というお話でした。それで「小説すばる」では美姫を直接知っている人たちの話を書き、「レンザブロー」ではコミュニティサイトの動きや週刊誌報道を書くことで、「事件がどれだけひとり歩きしていくか」を表現したいと思いました。

『白ゆき姫殺人事件』湊かなえ|担当編集のテマエミソ新刊案内|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー

個人的には、自分が日常的に SNS で発信しないタイプなので「日常的に発信する人は一体どんな感じで SNS を使ってるんやろう」と前から気になっていたのですが、映画を観ていると赤星雄治は思考回路と SNS が完全にリンクしていて、考えたことがそのまま指先から SNS にアウトプットされていたのでびっくりでした。友人に LINE を送る時ですら考え込んで文字を打つ私には、到底ついていけないスピードです。そうか、こうなっていたのか・・・

先ほどの集英社のインタビューによると、湊かなえさんは普段 Twitter やブログは見ないそうですが、それでこの洞察力には本当参ります。

でもって、女の世界は本当、怖いです・・・

この映画も大好き