『プエルトリコ危機』を理解する

世界が「ギリシャ危機」に注目する中、明らかになった「プエルトリコ危機」。

いろいろとニュースを読んでいると、Vox の記事『The Puerto Rico crisis, explained(解説、プエルトリコ危機)』がプエルトリコ危機のニュースに対して私が抱いた疑問にいろいろと答えてくれていたので、ピックアップしてみたいと思います。

プエルトリコで起こっていること

For years, a quirk of US law created a tax subsidy for Puerto Rican debt that encouraged middle class Americans to binge on loaning money to Puerto Rico without really realizing that’s what they were doing. The Puerto Rican government took advantage of this situation by borrowing a lot of money, but didn’t manage to spend the money that they borrowed to accomplish much that was useful in the long term.

(気まぐれなアメリカの法律によってつくられたプエルトリコの借金に対する税制補助金制度により、長年の間、中産階級のアメリカ人たちはそうとも知らずにプエルトリコにお金を貸しまくっていた。プエルトリコ政府は多額の資金を借りてその恩恵を受けたが、借りた資金を長期的に役立つようにうまく運用することはなかった。)

The Puerto Rico crisis, explained – Vox

その後、2006年からプエルトリコは数々の経済的不運に見舞われ、景気悪化。不景気に喘ぐ政府を見捨てるように、米国本土へと脱出する人が増えました。人がいなくなれば税収入も減るので、政府は増税や支出削減を試み、さらにプエルトリコを脱出する人は増加。その間にも、借金の利子はどんどん高くなっていきます。

それでついに2015年6月末、ガルシア・パディラ知事が「もうお金は返せない」とお手上げ状態になったのでした。

パディラ知事の怖れる「死のスパイラル」とは

People generally don’t like paying taxes but do enjoy receiving high quality government services. Consequently, a given territory’s ability to turn tax revenue into useful services is an important driver of whether people will want to live and do business there. To the extent that your tax revenue is going to pay off old debts, it is not going to provide current services. Thus the more of your budget that you dedicate to debt repayment, the worse the value proposition that you are delivering to your territory’s residents and businesses.

(一般的に人は、税金は払いたくないけれども政府の質の高いサービスは受けたいものだ。結果的に、税収入を価値のあるサービスにする能力というのは、その場所に住みたい、あるいはビジネスをしたいと思わせられるかどうかの重要な鍵となる。税収入で借金を完済するまでは、現在のようなサービスは提供しないだろう。したがって、借金返済により多く予算を充てれば充てるほど、その土地の住人や企業に提供される価値提案は悪くなっていく。)

The Puerto Rico crisis, explained – Vox

プエルトリコが財布の紐を締めれば締めるほど、経済は困窮。しかし経済が困窮すれば、さらにプエルトリコは返済が難しくなっていく。これが死のスパイラルというわけなんですね。

借金の額の大きさ

Two US states have more debt than that — California and New York — but Puerto Rico is much smaller, with approximately the population of San Diego County. New York and California are also richer than the average US state whereas Puerto Rico is poorer. Almost all US states have growing populations, but Puerto Rico’s is shrinking. In October of 2013, the Economist reported that “in America’s 50 states the average ratio of state debt to personal income is 3.4%” whereas the ratings agency Moody’s says the comparable figure for Puerto Rico is 89 percent.

(〔プエルトリコの借金は総額720億円だが、〕米国内にはそれを上回る借金を抱える州が2つある。カリフォルニア州とニューヨーク州だ。しかしプエルトリコはそれらの州よりも規模が小さく、カリフォルニア州サンディエゴ郡の人口におよそ匹敵する程度。また、ニューヨーク州やカリフォルニア州は全国平均以上の裕福な州である一方、プエルトリコは平均よりも貧しい。ほぼ全州で人口は増加している一方、プエルトリコでは人口が減少中。2013年10月、英エコノミスト誌は「アメリカの全50州において、個人の収入における州の借金の平均は3.4%」と伝えたが、格付け大手ムーディーズによると、プエルトリコの場合は89%だという。)

The Puerto Rico crisis, explained – Vox

プエルトリコへのお金の貸し手

Those funds, in turn, were invested in a diverse array of US public sector bonds. Since Puerto Rican bonds feature some unusual tax advantages, there was an unusually robust level of demand for Puerto Rican debt. Successful Puerto Rican governments responded to demand for their debt in the economically rational way — they borrowed an unusually large amount of money. But none of this lending was driven by particular scrutiny of the details of Puerto Rico’s economic situation, and when Puerto Rico’s economic fortunes began to change about ten years ago the dynamics became untenable.

(それらのファンドが今度は、アメリカのさまざまな公共債券に投資された。プエルトリコの債券には一般的ではない税の優遇措置があったため、需要は著しく強固だった。プエルトリコ政府は、借金に対する需要に対し、経済的に合理的に応えた。巨額の資金を借りたのだ。しかしこれらの貸し出しはプエルトリコの経済状況の詳細を特に監視もせず行われたため、プエルトリコの財運に変化が訪れた10年前を機に状況は不安定に陥った。)

The Puerto Rico crisis, explained – Vox

プエルトリコ政府の非としては、資金を有効に活用できなかったこと。プエルトリコは、借りたお金を公共事業や社会奉仕に投じて発展を目指すのではなく、気前ばかり良くて長期的視野に欠けた生活保護に割り当てていました。都合良く流れていた資金が断たれた今、残るのはかさ張る借金ばかりです。

プエルトリコ債とは

All municipal bonds are exempt from federal income taxes. In additional, if you buy municipal bonds issued by the place where you live, those bonds are exempt from state and local income taxes as well. Such bonds are known as triple tax exempt, and they’re a big deal for municipal finance and high tax places like New York and California.

(地方債は全て連邦所得税の控除対象となる。さらに、居住している地域で発行された地方債を購入すれば、その州の所得税の控除対象にもなる。そのような債券はトリプル免税として知られ、ニューヨークやカリフォルニアのように税金の高い都市や、都市財政にとっては重要なものとなっている。)

The Puerto Rico crisis, explained – Vox

しかもプエルトリコの債券には、住んでいる場所に限らずトリプル免税が適応されるそうです。それでプエルトリコにじゃんじゃかお金が流れていたんですね〜

プエルトリコに起こったこと

That was the year that Puerto Rico lost its longstanding federal tax advantages as a location for US companies to do business in. From 1986 to 1996, these took the form of special tax credits that were rationalized as a way to help Puerto Rico be competitive with developing countries as a manufacturing location, given that Puerto Rico-based firms need to comply with basic US labor rights and safety standards. But starting in 1996 these advantages were placed on a 10-year phaseout schedule and despite the hopes of Puerto Rican politicians (and tax break hungry business) they were never extended or replaced. That began an exodus of businesses from the island from which it has never really recovered.

(2006年以降、プエルトリコはいくつものネガティブな出来事に見舞われ、経済や信用価値が弱体化した。

2006年は、プエルトリコが米企業の進出先として長い間享受していた連邦税による恩恵を失った年だ。1986年から1996年にかけ、その恩恵は特別な税額控除という形を取って、プエルトリコが製造業の土地として発展途上国と競争するために正当化された。その背景にはプエルトリコに拠点を置く会社は、米本土の労働者権利や安全規格を順守しなければならないことが考慮されていた。しかし1996年以降、これらの特権は10年の段階的廃止計画とされ、プエルトリコの政治家〔や税の抜け道を必要とする企業〕の望みとは裏腹に、延長されたり切り替えられたりすることはなかった。それによって企業の島からの大脱出が始まり、残された島が回復することはなかった。)

The Puerto Rico crisis, explained – Vox

プエルトリコは7月1日にいったんデフォルトを回避しましたが、まだまだ正念場は続きます。

プエルトリコと言えば、ウエスト・サイド物語

ちなみにジェガーさんはかつてプエルトリコに住んでいたこともあるそうですが、行ったこともない私にとってプエルトリコと聞けばまず思い出すのは、『ウエスト・サイド物語』。Vox も『ウエスト・サイド物語』の “America” を捧げていました!

往年の名作