映画『狼たちの午後』のきっかけとなった LIFE 誌の英記事

先日、シドニー・ルメット監督の映画『狼たちの午後(Dog Day Afternoon)』(1975)を観ました。

この映画は、1972年にニューヨークで実際に起こった銀行強盗事件が元になっています。

雑誌 LIFE の記事を元に忠実に再現

エンドロールで元記事が紹介されていたのですが、調べたところ、LIFE 誌の1972年9月22日発行号で特集された『The Boys in the Bank』という記事でした。

この記事を読むと、映画がかなり事実に忠実であることが読み取れます。たとえば記事の冒頭。

It is closing time Tuesday, August 22, at a Chase Manhattan Bank branch in Brooklyn, a modest, modern structure sitting on a quiet corner at Avenue P and East Third Street. Calvin Jones, a uniformed (and unarmed) bank guard, begins locking the doors behind departing customers. Shirley Ball, a teller, starts her final tally of the day’s receipts. And bank manager Robert Barrett looks up from a couple of loan applications to see a sandy-haired, baby-faced yound man nervously approaching his desk.

“Are you Mr. Barrett?”
“Yes,”
“I’m Mr….”
Barrett doesn’t quite catch the name. The young man sits down at his desk, however, and manages to pronounce his next couple sentences a little more clearly.

(それは、P 通りと東3番通りの交差点にひっそりと佇む、現代的な構えでありながら目立ちはしない、ブルックリンの Chase 銀行マンハッタン支店で、8月22日火曜日の営業時間終了間際に起こった。制服を着た [無装備の] 銀行警備員、カルヴィン・ジョーンズは、出ていく客の背後でドアに鍵をかけ始めていた。窓口係のシャーリー・ベルは、その日の領収を集計し始めていた。そして支店長のロバート・バレットは、手元のローンの申込書から目を離し、緊張した面持ちで机に近づいてくる童顔の若い茶髪の男に目をやった。

「ベネットさんですか?」
「ええ」
「私は・・・」
ベネットには名前がよく聞き取れなかった。しかし、若い男は机のところに座ると、その後の言葉はもう少しはっきり口にした。)

このくだり、映画でほぼ再現されています。

登場人物も実際の人物を再現

犯人のソニーを演じたのは名優アル・パチーノさん。驚くことに、元記事を読んでいると、実犯人のジョン・ウォトヴィッツの描写は以下のように書かれていました。

John Wojtowics, a dark, thin fellow with the broken-faced good looks of an Al Pacino or a Dustin Hoffman, heading into the teller’s area with an attache case.

(アル・パチーノやダスティン・ホフマンの顔つきに似た、色黒で華奢なジョン・ウォトヴィッツが、銀行の窓口係のところへアタッシュケースを持って向かっていった。)

記事には犯人の写真も載っていましたが、確かにアル・パチーノさんやダスティン・ホフマンさんに風貌が似ています。彼だけでなく、彼のまわりの人間も何人か俳優とそっくりでびっくり。

映画の中では、ソニーの行動や態度が時々、本人はシリアスに振る舞っていても周りから見ると滑稽ということがあったのですが、実際もそんな感じだったみたいです。

“If they had been my houseguests on a Saturday night, it would have been hilarious,” Shairley Ball recalls. “Especially with John’s antics, the way he hopped around all over the place, the way he talked.”

(「もし彼らが〔銀行強盗としてではなく〕土曜夜のゲストとして私の家に来ていたら、大爆笑だったでしょうね」とシャーリー・ボールは振り返る。「特にジョンの行動が。辺りを飛び跳ねて回るところとか、話し方とか。」)

映画のあのシーン、実際はこうなっていた

一方、映画とは少し描写が異なる部分もありました。例えば映画の中では、”ソニー” が書類を燃やす時に発生した煙が外部に異変を感じさせるように描かれていましたが、実際は電話を通して異変が外部に伝えられていたようです。

The phone rings on Barrett’s desk and the bank manager — still under the gun — takes the call. Joe Anterio, a personnel officer in Chase Manhattan’s downtown headquarters, is requesting the transfer of a teller to another branch. Barrett surprises Anterio by opposing the transfer. Instead, he suggests the name of a teller who’d been fired four months earlier on suspicion of theft.
“You’re talking funny, Bob,” Anterio says. “Is something wrong down there?”
“Yep!” says Barrett, slamming down the phone. Unaware of the message hidden in Barrett’s seemingly routine phone conversation, the robbers go about their business.

(銀行のマネジャーであるバレット氏の机の上の電話が鳴り、銃を突きつけられたままバレット氏が応じると、マンハッタン中心部にある Chase 銀行本部の人事、ジョー・アンテリオ氏で、窓口係の他オフィスへの異動に関する用件だった。バレット氏は異動を断ってアンテリオ氏を驚かせたうえ、4ヶ月前に盗みの疑いで解雇された窓口係の名前を口にした。
「ボブ、君ちょっと様子が変だよ」とアンテリオ氏。「何かおかしなことでも起こっているのか?」
すると「ああ!」と答え、勢いよく電話を切るバレット氏。この一見ありふれた電話口の会話に込められたメッセージに気がつかないまま、強盗たちは自分たちの作業にかかっていた。)

演技も演出も素晴らしいけど、脚本も素晴らしい

ソニーの滑稽ぶりを人間臭く体現するアル・パチーノさんも、非日常に騒ぐ街の様子を滑稽に切り取るシドニー・ルメット監督も本当に素晴らしかったですが、こうして元記事を読むと、やはり脚本も相当素晴らしいと思わずにはいられません。

と思ったら、やはり脚本を手がけたフランク・ピアソンさん、アカデミー賞を受賞していました!

元記事を読んだらもう1回映画が観たくなってきました。