「家族」の定義を模索する是枝裕和監督作『そして父になる』

日本に一時帰国する直前、前から観たい観たいと思っていた、是枝裕和監督最新作『そして父になる』(2013)をジェガーさんと観ました。第66回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で審査員賞(Jury Prize)を受賞した作品です。

私のいるところでは今年の2月末に2週間限定で劇場公開されたのですが、その時期ちょうど私が単身で一時帰国するタイミングだったため、半年遅れで Netflix での鑑賞となりました。

家族とは、血縁なのか、時間なのか

是枝監督と言えば、家族をテーマにした作品が多いです。今回の作品も、『そして父になる』ということで、やはり家族がテーマになっています。

福山雅治さん演じる野々宮家の父・良多は、大手建設会社に務める “エリート”。映画は、息子・慶多の小学校受験のシーンから始まります。どちらかというと母親よりも父親の方が教育にこだわっている印象で、しつけも母親より厳しめ。良多の思惑通り慶多は順調にエリート街道を歩み始めますが、6歳になって突然親子の間に「血のつながりがない」ことが発覚し、良多の “理想” が崩壊します。

是枝さんは、今回の映画のテーマを、実生活で見つけたそうです。

是枝監督:家族というのは血なのか時間なのかという事は、自分が子供を持って考える様になりました。仕事が忙しくて、夜遅くに帰宅して寝顔だけ見るといった生活が続いていて、なおかつ『奇跡』という映画で1ヶ月半九州に行っていて。久しぶりに家に帰ったら、当時三歳の娘の反応が「おかえりー!」って感じじゃなかったんですよ。ちょっと緊張してるなっていうか。それで翌朝家を出る時に「また来てね」と言われて。それで、これはまずいなと思って。このままだと時々来る人みたいになってしまうと。

一生懸命働いている背中を見せれば子供は育つという価値観がどこかにあったんだけど、それは甘えだったんだなって。一緒に暮らしている父親として関わりを持たないと、もったいないかなと思って。血のつながりに頼って、過信していると失敗するなと思って。それで、福山さんを主演に迎えて作品を撮る時に、自分が今対面している“父親になる”という事をテーマに話を作ろうと。

『そして父になる』是枝監督インタビュー「家族というのは血なのか時間なのか」娘の一言がきっかけに | ガジェット通信

「家族が血なのか時間なのか」というのは、すごく面白いテーマだなと思います。慶多は片田舎に住む5人家族の斎木家の長男と出生時に取り違えになっていたことが判明するのですが、野々宮家と斎木家が「血のつながりのある息子」を取るのか、それとも「ずっと一緒に暮らしてきた息子」を取るのか、すごく気になりました。

しかも、野々宮家と斎木家は子育ての環境が全然違って、「血のつながりのある息子」と「ずっと一緒に暮らしてきた息子」は正反対の子どもに育っています。。リリー・フランキーさん演じる斎木家の父・雄大は、とにかく子どもと一緒に遊びます。おっきい子どもみたいです。一方良多は、忙しくて子どもと接する機会が物理的に少ないというのもありますが、子どものことをあまりよく見ていません。

私も「お受験」を経験していて、野々宮一家とは多少共通点があります。でも、私の父と母は、斎木家のようにいつもすぐ側にいました。小さい頃はそれが当たり前だと思っていましたが、今思えば、父と母が側にいるだけで私は安心できていたのだと思います。私は家族をよく褒められるのですが、おそらく私の家族が仲良いのは、斎木家のように一緒に過ごす時間を大事にしてきたからなのかなと思います。

そう考えると、家族としての絆は「血」で生まれるけれども、家族としての信頼は「一緒に過ごす時間」で生まれるのかもしれません。

ハリウッドでのリメイクも決定

ちなみに、この映画がカンヌ国際映画祭で審査委員賞を受賞した時、審査員長はスティーブン・スピルバーグ監督でした。

スピルバーグ監督はかなりこの作品が気に入ったようで、ハリウッド・リメイクも決定しています。

是枝監督:何社か手が挙ってドリームワークス社でスピルバーグが制作を担当するという事になり、本当にこの映画気に入ってくれてたんだなって嬉しかったです。カンヌ映画祭の4ヶ月後にリメイクが決まって、再びお会いした時に「映画を観た後の感動が今でも蘇ってくる」と言ってくれて、「あのシーンのこの描写が好きだ」とかかなり細かく感想を教えてくれました。「俺、今スピルバーグと映画の話してる」って、純粋にファンの気持ちで(笑)。

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私はリメイク作品にもともと関心が薄いのですが、是枝監督が福山さんの役にクリスチャン・ベイルさんを希望されていると知ってちょっと興奮。もしクリスチャン・ベイルさんが本当に配役されたら、リメイク版もたぶん観に行きます。

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