『バードマン』を凌ぐ!本当にワンカットで撮影されたドイツ映画『ヴィクトリア』
昨年私が最も気に入った映画は、ワンカットで撮影されたという映画『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』でしたが、今年なんと、それを凌ぐ映画を観てしまいました。
それは、ドイツ映画の『ヴィクトリア』。
真のワンカット撮影
『ヴィクトリア』は、ドイツに来てまだ3ヶ月のスペイン人の女の子ヴィクトリアが、深夜のクラブ帰りに危険な香り漂うドイツ人の若者グループと仲良くなり、流れに身を任せて楽しんでいるうちにずるずると犯罪に巻きこまれて行くというスリラー映画です。
驚くべき点は、この映画が本当に一発で撮影されていること。そう、実は『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』ですら、完全に一発で撮影されたわけではありません。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』は複数のカットがさりげなく繋げられて、あたかも一発で撮影されたようにうまく見せかけられていました。
完全に一発で撮影された映画は『『ヴィクトリア』』が初めてというわけでもありませんが、『『ヴィクトリア』』のすごいところは、テンポが早く、アクションシーンも入っているところ。緊張感が半端ありません。
壮絶な撮影現場
ニューヨーク・タイムズ紙の記事『Talk About a Director’s Cut: ‘Victoria’ Packs 134 Minutes Into One Shot』によると、リハーサルはもちろん何度も行われたようですが、本番はたった3回だったとのこと。
脚本は実質12ページで、会話のほとんどはアドリブで構成されています。本番の撮影は毎回午前4時半から明け方にかけて行われたそうですが、途中で酔っぱらった一般人が入ってきたり、役者が演技を間違えたりしても、撮影を途中で止めることはできないため全部俳優たちが演技でカバーしたそうです。
中でも特に演技が光っていたのは、主人公のヴィクトリアを演じたライア・コスタさん。通常の撮影とは比較にならないほどの緊張とプレッシャーの中、特に後半、奇跡とも呼べる演技を披露していました。
“外国人” あるある?のストーリー
ストーリーに関しては、最初私はヴィクトリアにけっこう腹が立っていました。というのも、外国に来てまだ3ヶ月しか経っていないのに、深夜に一人で出歩いていて、無防備も良いところだと思ったからです。若者グループに声をかけられてひょいひょいついていくあたりも、警戒心なさすぎです。
ところが、ヴィクトリアが言葉の通じないドイツにスペインからやって来た理由が明かされていくにしたがって、私もアメリカに来た頃を思い出して切ない気分になりました。そういえば私も、アメリカに来たばかりの頃は希望に溢れていたわけではなく、むしろ人生を模索していて、がむしゃらな気持ちとどうにでもなれという気持ちが混在していました。
ヴィクトリアは、深夜に遊ぶ非日常的な出来事を通して、自分の人生と向き合うことから逃避しようとしていたのかもしれません。それでも、外国というのは、日常ですら非日常的に感じられるところです。しかも3ヶ月というのは、実際はまだあまり慣れていないのに、慣れたと勘違いしやすい危険な時期でもあります。ヴィクトリアはドイツ人の若者たちと英語で会話をするのですが、ドイツ人同士の会話がわからないために状況がいまいち理解できず、簡単に後戻りできないところまで行ってしまいますが、その様子はもう皮肉としか言いようがありません。
『ヴィクトリア』はドイツ映画祭で作品賞や監督賞、撮影賞など6冠を達成している他、ベルリン国際映画祭でも撮影監督が最優秀芸術貢献賞を受賞。
私が今年観た映画の中で、ダントツで一番面白かったです。