アメリカで出産するなら知っておきたい、アメリカの育休事情

私はアメリカに来るまで知らなかったのですが、アメリカは世界でも珍しく「育休取得が義務付けられていない国」の一つとなっています。先進国の中でこのような体制になっているのは、なんとアメリカのみ。私はアメリカに来るまでてっきり「欧米の産休・育休制度は日本よりも整っている」と思っていたので、この事実を知った時は衝撃的でした。

アメリカでは、育休は基本無給休暇

NPR の記事『Lots Of Other Countries Mandate Paid Leave. Why Not The U.S.? : It’s All Politics(多くの国は有給休暇を義務づけていのにアメリカではなぜ?–答えは全て政治問題)』によると、一応育児介護休業法(Family Medical Leave Act)によって最大12週まで育休取得は認められているそうですが、あくまでも無給休暇

私の勤め先も全くこの通りで、私は来年、3ヶ月間(12週間)産休・育休を取得したら職場に復帰する予定です。やはり無給休暇なので、今の間に有給休暇や病気休暇をできるだけ貯めておいて、産休・育休期間に充てることにしています・・・

産休・育休制度が整っているのは “欧米” ではなく “欧” だけ

「そもそも何でこうなってんねん」という感じですが、NPR の記事を読み続けていると、いかにもアメリカらしい理由が語られていました。

For a variety of reasons, Lipset argued, Americans have a different way of thinking about their democracy — the young American democracy was founded with values like individualism and equality of opportunity at its center. And unlike many European democracies, the U.S. has never been a monarchy or a feudal society — that means there’s less awareness of class divisions and less deference to the state in the U.S., Lipset writes. He also proposes a similar explanation for how labor parties and trade unions managed to be stronger in other countries but not in the U.S. — where there’s less class awareness, there’s less likelihood to join unions.

([政治学者の]リップセット氏によると、さまざまな理由で、アメリカ人は民主主義に対して異なる考え方を持っているという。アメリカの民主主義は歴史が浅く、個人主義や機会均等が軸になっている。また、ヨーロッパと違ってアメリカには君主制や封建社会の時代がなかったため、階級区分に対する意識や国家への服従心もあまりない。そのため、アメリカでは他国ほど労働党や労働組合が力を持たず、労働組合に入る人も少ない傾向があると説く。)

Lots Of Other Countries Mandate Paid Leave. Why Not The U.S.? : It’s All Politics : NPR

どうも、労働組合が弱い分、労働者を守る制度の支援も弱くなってしまう、という流れになっているようです。実際、アメリカは産休・育休に限らず、病気休暇そのものが他国と比べて非常に取得しにくい環境になっていることも明らかになっています。

さらに、アメリカとヨーロッパは戦後の状況も異なりました。

Europe suffered both massive casualties and massive damage to its infrastructure, Milkman explains, and it needed to get more people into the workplace. That meant helping women get into work. Meanwhile, when the U.S. troops came home, it meant less of a need for women in the workplace.

(ヨーロッパでは大量虐殺やインフラが大打撃を受けた影響から、より多くの雇用を生み出す必要があったと〔ニューヨーク市立大学社会学教授の〕ミルクマン氏は説明する。女性の雇用支援もその一環だった。一方、アメリカでは米軍が戻った後、女性の雇用はそれほど必要ではなくなったという。)

Lots Of Other Countries Mandate Paid Leave. Why Not The U.S.? : It’s All Politics : NPR

アメリカは、今でこそ女性の社会進出が当たり前になっていますが、だからこそ、こうして歪みが出てきているのかもしれません。

例外は IT 業界

ただし唯一例外があります。それは IT 業界。IT 業界では最近、積極的に産休取得が勧められています

Tech companies often implement changes before businesses in other industries because recruiting for engineering and other talent is so competitive, said Glassdoor community expert Scott Dobroski.

(テック企業はしばしば他業界に先駆けて制度変更を実施しているが、それはエンジニアや他の優秀な人材のリクルートが極めて競合的であるため、と〔雇用者レビューサイト〕Glassdoor のコミュニティ・エキスパート、スコット・ドブロスキー氏は語る。)

Lots Of Other Countries Mandate Paid Leave. Why Not The U.S.? : It’s All Politics : NPR

こうして企業の制度改革がどんどんニュースになっていくことで、他の企業や組織にも少しずつ改革が浸透していって、全体的に福利厚生制度が充実していけば良いなと願います。

ちなみに、米労働省(Department of Labor)もこんなキャンペーンを展開していました。

来年の選挙に向けて、このあたりも要注目です。