SF映画『わたしを離さないで』で描かれる、死と向き合う若者たち

先日 Blu-ray を借りて映画『わたしを離さないで』(2010)を観ました。

ダークなSF

原作は、カズオ・イシグロさんの同名小説『わたしを離さないで 』です。

しかし私は事前知識がそれくらいしかなく、てっきり恋愛映画だと思っていました。しかしジェガーさんは、観る前に「これ、怖いやつちゃうん」

「えっ、怖いの?」
「確か怖い系やで」
「えっ、ホラー?」
「いや、ジャンル的には・・・SF?」

実際観てみたら、確かに SF です。一見孤児院のようなところで育っていく子どもたちに隠されたバイオテクノロジーの秘密が、確かに怖いです。でも、どちらかというと、怖いというよりは暗い作品でした。

ジェガーさんにとってはちょっといまいちだったようですが、私はダークな作品が好みなので、この手の作品はかなり好きです。

原作者の思い

イシグロさんは以下の映像で、自分の人生のリミットを知った若者たちを描くことで「死」に対する新たな視点を提示したかったけれども、それだと暗くなってしまうので、「死と向き合った時に何を大事だと思うか」に光を当てたと語っています。

死と向き合う登場人物たちを描く作品は多いですが、『わたしを離さないで』の場合は、そこの前提が SF になっているところが、私はめちゃくちゃ面白いと思いました。

イシグロさんが2005年に英ガーディアン誌に寄稿した記事『Kazuo Ishiguro on his novel Never Let Me Go』によると、もともとイギリスの片田舎で共同生活を送る学生ものの話を1990年代に書きためていたそうです。

ところが、長い間そこから話を発展できず、違う本を書いたりしていたところ、ある日ラジオでバイオテクノロジーの進化について語られるのを耳にして「これだ!」と思ったそう。

若者たちの大きな関心の一つである恋愛においても、死と向き合うことで登場人物たちの心境や価値観に変化が表れていく過程が繊細に描かれています。

たとえば、キャリー・マリガンさん演じるキャシーは、アンドリュー・ガーフィールドさん演じるトミーのことが好きなんですが、トミーとは付き合えません。トミーも明らかにキャシーのことを「人間的に好き」なのに、「性的対象として好き」かどうかというところが空白になっているわけです。

けれども人間は、結局は心の寄りどころを求める生きもの。「性的対象として好き」という気持ちだけだと、だんだん空しくなるのかもしれません。

同様に、人間がたとえ利便性を求めて技術を発展させたとしても、やはり死からは逃れられないわけで、一時的な解決法で人間の心が救われるかというと、やはりそうではないのかもしれません。

映画の中で流れる『Never Let Me Go』という曲が、ずっと頭でリフレインしています。

原作を読んでもう一度観たい