アメリカで歯根管治療を初体験

そもそもの始まりは、ある日りんごを食べていた時に、いきなり金歯が抜けたこと。

最初は「歯医者に金歯をまたくっつけてもらえば一件落着やろう」と気楽に考えていたのですが、なぜか金歯をつけてもらった翌日から歯に激痛(sharp pain)が発生。「歯の噛み合わせがちゃんと調整されてなかったんかな」と考えて歯医者に通い、歯を少しずつ削ってもらうも、全然改善される見込みはありません。

歯医者に「スペシャリストに行け」と言われるようになり、「スペシャリストって何やねん」「歯医者で何とかしてや」と思っていたのですが、歯の痛みは収まらないどころかひどくなり、歯茎も痛み出したと思ったらリンパ腺まで腫れてきて、仕事もままならないほど頭痛が激しくなってきました。もうお手上げです。

スペシャリストは私の今の保険ではカバーされませんが、「もうスペシャリストでも何でも行く!」と決心し、歯医者に紹介してもらった番号に電話をかけて予約することに。

診療所に行くまでは、正直何のスペシャリストかもよくわかっていなかったのですが、診察時にもらった名刺には、”歯内治療専門医(endodontic specialists)” と書かれていました。私の担当医は30代ぐらいの若い男の人で、診療所は普通の歯科医院とあまり変わりません。唯一、歯の中を覗く時にスペシャリストが天井近くから引き寄せて来たのが、ライトではなく顕微鏡みたいな器具だったのがびっくりでした。

「レントゲン(X-ray)で確認したところ、どうも歯根管(root canal)が炎症しているようですね。しばらく前から少しずつ進行していて、それが原因で金歯が取れたものと思われます」
「りんごじゃなかったんですね」
「それなのに、がっつり金歯を戻してしまったものですから、炎症が溜まって痛みが発生したのでしょう。歯茎(gum)もだいぶ腫れていますから、まずは抗生物質(antibiotic)で炎症を抑えて、その後歯根管の治療を行いましょう」

歯医者でレントゲンを撮った時は、誰も歯根管の炎症に気がつかなかったのですが、スペシャリストのところのレントゲンは高性能みたいです。少し希望が見えてきました。

「では今日は抗生物質を処方します(prescribe)ので、それを毎日飲んでいただいて、来週歯根管の治療をしてよろしいですか?」
「はい」
「では、水曜日の午前8時はいかがでしょう?」
「えっ、午前8時!?」

一緒に来てくれていたジェガーさんも、隣で私と同じ「えっ、午前8時!?」という顔になっています。でもまあ、私もその後仕事があるので、かえってそれくらいの方が良いかもしれません。

「治療って何分くらいかかりますかね?」
「1時間半〜2時間くらいですかね。金歯に細い穴を開けて、そこから歯根管を治療するので」

思ったより長丁場そうです。でも、それでお願いします、ということで、翌週午前8時に再びスペシャリストのもとへ参上しました。

「ではまず、歯に麻酔をかけますねー」

歯茎に細い注射のようなものをさされ、一瞬チクッと痛みがあった後、まもなく患部周辺が麻痺状態になりました。

「では、次は舌が薬などを感じないように、覆いをしますねー」

器具を使って口が大きく開けられ、よく医療ドラマで目にするような緑っぽいシートが固定されました。患部以外は緑のシートで覆い隠されている感じです。
dental dam

(”歯科用ダム〔dental dam〕” と言うそうです By Fotograf: Alen Vlahovic, Gelsenkirchen, Germany (-) [GFDL or CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons

歯やけど、めっちゃ手術っぽいな〜と思っていると、金歯に細い穴を開ける作業が始まりました。ジェガーさんから「歯根管治療は痛いかも」と聞いていたので、どきどきしていたのですが、全然痛くありません。

むしろ、いつもより早起きしたので、痛みよりも睡魔と戦うことに。診察台に横になった時にサングラスをかけられたのですが、それが日本の美容院で髪を洗ってもらう時に顔にかけてもらうタオルのような気がしてきて、ちょっと寝てもバレなさそうです。

でも、寝そうになると “Riho!” と呼びかけられて、しっかり起こされました。

そうこうしているうちにあっという間に2時間が経過し、治療終了。治療後のレントゲンを見せてもらうと、歯根管部分がしっかり補強されています。

「保険の問題もあると聞きましたので、とりあえず今日は金歯に開けた穴を詰めておきました。1年くらいはこのままで大丈夫なので、保険が効くようになったらまた歯医者に行って、新しいセラミックの歯を作ってもらってください」
「ここでの治療はこれで終わりでしょうか」
「ええ。今後1週間は治療の影響で打ち身(bruise)のような痛みが残ると思いますが、その後は何も問題がなくなると思います」

そして、それから1週間が経ち、本当にすっかり元通りに戻りました。心配していた今回の治療費も、450ドルという結果に。私の身内に歯医者がいることもあり、「治療費が日本行き航空券代(1,000〜1,200ドル)を超えたら、これからはもう治療のためだけでも帰国しよう」と思っていたのですが、思ったよりましでした。

こちらの歯の治療費は普通の医療費よりも高いと言われていて、場合によっては本当に「日本に帰って治療してもらった方が安い」こともあると聞きます。でも、今回はスペシャリストが治療を2段階に分けてくれたので助かりました。

というわけで、これまではいつも帰国に合わせて日本で歯を診てもらっていた私。アメリカで歯の治療をするのは今回が初めてだったのですが、「簡単な治療でない場合は、歯医者でなくスペシャリストに行く必要もある」「スペシャリストに診てもらうと、保険でカバーされないことがある」「スペシャリストは、専門領域に特化した特別な歯医者のことなので、そんなに怖がる必要はない」など、いろいろわかって良かったです。

外務省のページにも、アメリカの「専門医」システムについて言及されていました(太字装飾は私が追加)。

(b)健康診断,風邪等の治療,予防接種等を受けて日頃からファミリードクター(Primary Care Physician)と顔見知りになっておく事が大切です。当地では,医師の専門分野が細分化されているので病気によっては数人以上の医師にかかる必要がある事もあり診察,治療,支払い等個別に対応しなければなりません。1年以上経ってから医療費の請求が届くこともあるので注意が必要です。緊急時以外はファミリードクター(Primary Care Physician)に診てもらい,更に治療が必要な場合,専門医を紹介してもらうのが,直接専門医や病院へ行くよりも効率のよい方法です。専門医は予約制の為,急病時に受診出来る医療機関は限られます。予約無しで受診出来る病院の救急部(ER)ではいつも患者が多く,重症者が優先されるため,軽症者は数時間待たされることになります。

via 外務省: 世界の医療事情 アメリカ合衆国(ワシントンD.C.周辺)

上記は医療全般について述べられていますが、歯の場合だと、親知らず(wisdom tooth)を抜く時などもスペシャリストに回されることがあるみたいです。

最初は「スペシャリスト」という言葉にかなりびびっていましたが、アメリカの専門医の仕組みがこれでよくわかりました!

補足

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