【ネタバレあり】映画『アメリカン・スナイパー』が描く退役軍人の苦悩

先日、クリント・イーストウッド監督の最新作『アメリカン・スナイパー』を観ました。

この映画は、戦争映画として歴史的大ヒットを記録中。

「アメリカン・スナイパー」の北米累計興行収入は2億4890万ドルと、スティーブン・スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」(1998年)をかわして戦争映画の収入記録も塗り替えた。全世界での累計興行収入は3億1620万ドルに達した。

「アメリカン・スナイパー」が3週連続首位―北米映画興行収入 – WSJ(2.2.2015)

同時に、賛否両論も呼んでいます。

しかし、この映画は別に必ずしも「160人を殺したスナイパーの名手」を英雄的に取り上げているわけではありません。むしろ私には、「人は戦地で160人もの人間を殺すとどうなるか」をテーマにした映画のように見えました。

実在のスナイパー

アメリカン・スナイパー』は、実在のスナイパーであるクリス・カイルさんの同名の回顧録が原作。カイルさんはイラク戦争に4度遠征し、退役後 PTSD に悩まされていたと言われています。

The circumstances of Kyle’s death aren’t discussed in detail in the Oscar-nominated biopic, which mostly focuses on Kyle’s career as one of the country’s most praised and skilled snipers.

(カイルの死をとりまく状況については、オスカー候補のこの自伝作の中では詳しく触れられない。映画は、我が国で最も讃えられ、最も実力があるとされたスナイパーのキャリアにほとんど焦点が当てられている。)

Trial of Eddie Routh, killer of Chris Kyle, will be darkest chapter of ‘American Sniper’ – The Washington Post

退役軍人と PTSD

そんなカイルの命を奪ったのは戦闘地の銃弾ではなく、若い退役軍人エディー・ルースの発砲した銃弾でした。この退役軍人も、戦闘地に赴いた後、PTSD を患っていたと言われています。

Routh’s many troubles were the very reason Kyle and Littlefield were in contact with him. Kyle’s trip to the Rough Creek gun range that day was likely part of an effort to help Routh deal with his post-traumatic stress disorder.

(ルースの抱えていた多くの問題こそ、カイルとリトルフィールドが彼にコンタクトを取った理由そのものだった。その日カイルは、ルースが心的外傷後ストレス障害と向き合うのを助ける一貫として、ラフ・クリークの銃射撃場へ出かけていた。)

Trial of Eddie Routh, killer of Chris Kyle, will be darkest chapter of ‘American Sniper’ – The Washington Post

2014年の調査によると、PTSD とアルコール問題の両方を抱えるイラク戦争およびアフガン戦争の退役軍人は、それらの問題がない退役軍人よりも、深刻な暴力をふるう確率が7倍も高いことがわかったそうです。

PTSD の症状はさまざまで、エディー・ルースの場合は躁鬱や悪夢などを抱え、8種類の薬を処方していたと報じられています。

Though not everyone does, some people with PTSD experience flashes of anger as a symptom. When anger on rare occasions turns to violence, it could be because the person is experiencing a flashback, which might to them seem like a potent hallucination, Foa said.

(必ずしも全員にあてはまるわけではないが、PTSD の症状の一つには、一瞬の激しい怒りがある。稀に怒りが暴力に変われば、それは当人がフラッシュバックを経験しているとも言え、彼らにとっては強い幻覚症状のようなものが起きている可能性がある、と〔ペンシルベニア大学の精神学者である〕フォーは言う。)

Trial of Eddie Routh, killer of Chris Kyle, will be darkest chapter of ‘American Sniper’ – The Washington Post

クリス・カイルにも「一瞬の激しい怒り」は表れていて、映画でもその様子が何度も描かれていました。

戦闘地から戻ってきたら、元の穏やかな生活に戻れるのかと思いきや、帰還後も目に見えない戦いに挑み続けるというのは、戦争の与える影響がいかに深いかを感じさせます。

イーストウッド監督と退役軍人

そしてイーストウッド監督は、そのあたりのことをよく映画で取り上げています。たとえば『父親たちの星条旗』(2006)は、星条旗を打ち立てる有名な写真「硫黄島の星条旗」(Raising the Flag on Iwojima)の被写体となって英雄視された兵士たちのその後などが描かれる作品でした。

また、『グラン・トリノ』(2008)は、朝鮮戦争を経験した退役軍人が主人公になっています。

私は『父親たちの星条旗』は観ましたが、『グラン・トリノ』は未見なので、そちらもぜひ観たいと思います。