微妙にニュアンスが異なる「sarcastic」と「irony」の違いとは?

私のいるところは海が近いので、シーフード料理がたくさん食べられます。特に有名なのは、クラムチャウダーとサーモン。サーモンは「フィッシュ・アンド・チップス」ならぬ「サーモン・アンド・チップス」になっていたり、「ビーフ・バーガー」ならぬ「サーモン・バーガー」になっていたり、いたるところに取り入れられています。

District 9

先日はジェガーママが「新しいサーモン・アンド・チップスの店見つけたで」と言ってきたので、さっそく3人で食事に行ってみました。でも、なんだかちょっといまいち。サーモンがえらいパサパサしているのです。ジェガーさんが明らかに不機嫌になり、私ももくもくとポテトを食べていると、ジェガーママがおもろい顔をしながら “This salmon is the best ever.” と言ったので、思わず吹き出してしまいました。

ポイント

私がアメリカに来て、初めてアメリカ人の友人ができた時に、最初に教えてもらった英単語が実は “sarcastic”〔発音〕でした。「これ知らんかったら、アメリカの笑いがわからなくなる」と言って、すごく頭にたたき込まれたのを覚えています。

sarcastic | Longman Dictionary

sarcastic: saying things that are the opposite of what you mean, in order to make an unkind joke or to show that you are annoyed

(自分が思っていることと反対のことを言うことによって、きつい冗談を言ったり、イライラしている状況を伝えたりすることなんですね〜)

“sarcastic” は、日本語の辞書を引くと「皮肉な」という意味が書かれていますが、”irony” とは少し違います。

“irony” は、端からは面白く見えることがあっても本人は笑えないことが多い一方、”sarcastic” はまわりから見ると笑えない状況を本人たちが笑いに変えていることが多いです。

サーモンがパサパサだった時も、3人のテンションは一気に下がったのですが、ジェガーママが「このサーモン今までで最高やわ」と言ったことで、「ジェガーママもやっぱりサーモンパサパサやと思ってたんや」ということがわかって思わず笑ってしまいました。

でも “sarcastic” というのは、当事者にとっては笑えても、まわりには不愉快に聞こえることもあります。ジェガーママがパサパサのサーモンを食べながら “This salmon is the best ever.” と言っているのを店の人が聞いたら、「あの人嫌みったらしい」と思ったかもしれません。

私は “sarcastic” を教えてもらった時、関西の笑いにちょっと似てるかも、と思いました。

でも、それを言うとよく言われるのが、「イギリスの人はもっと “sarcastic” やで」ということ。これについては、イギリスのコメディアンでアメリカでも活躍するリッキー・ジャーヴェイス(@rickygervais)さんが2年ほど前に TIME 誌で『The Difference Between American and British Humour』という記事を書いていたので、今週の<ヨムエイゴ>で改めてご紹介したいと思います。

補足

先日公開された映画『エリジウムElysium)』(日本は9月20日公開予定)でも、主人公を演じるマット・デイモンがロボットの口調にいらいらするのを抑えながら、ロボットの口調をマネして答え、それに対してロボットが “Are you being sarcastic and/or abusive?(それって冗談のつもりですか、それとも人を罵倒しているんですか?)”(0:34)と言っていました。

この場合も、マット・デイモンはイライラする状況をなんとか笑いで乗り越えようとしていますが、それがロボットには嫌みたらしく聞こえていて、今度はロボットがちょっとイライラしています。

この映画はジェガーさんのリクエストで観に行ったのですが、私は直前まで監督が映画『第9地区District 9)』(2009)で華々しいデビューを果たしたニール・ブロムカンプ(@NeillBlomkamp)さんであることを知りませんでした。
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『第9地区』も『エリジウム』も近未来の世界が舞台になっていて、『第9地区』ではエイリアンが地球で難民になっていましたが、『エリジウム』は地球に取り残された人が “難民” となっています。一部の人間だけが “エリジウム” というスペースコロニーに移り、優雅な暮らしを満喫しているのです。そんなエリジウムの保安機関を監督するのが、防衛庁のデラコート長官(ジョディ・フォスター)。めっちゃ冷徹で、地球からエリジウムに向かってくるシャトルを容赦なくばんばん撃退し、エリジウムの “秩序と平和” を保とうとしています。

そんなデラコート長官の元で働く覆面エージェントが一人地球にいるのですが、彼の独特な話し方を聞いて、私はすぐピンときました。

「この人、『第9地区』のヴィカスさんや!」

映画『第9地区』の主人公ヴィカスさんを演じていたシャールト・コプリー(@sharlto)さんは、ニール・ブロムカンプさんと同様『第9地区』で映画デビューを果たした人。彼はもともと制作会社のプロデューサーで、『第9地区』が初演技でした。

私はこのシャールト・コプリーさんがめちゃ好きです。『第9地区』ではちょっと頼りない感じの現場責任者を演じていて、とてもツボだったんですが、今回のエージェント役も良かったです。コプリーさんは一見普通の人から「化ける」のがうまくて、『第9地区』でもそうでしたが『エリジウム』でも大いに化けていました。

映画としては『ワールド・ウォーZWord War Z)』同様、ずっと ☆☆☆☆☆ だったのに最後の最後で ☆☆☆☆ になるというくらい、終わり方がちょっと残念だったのですが、演技に関しては私はコプリーさんの「化け」が見られただけで満足です。

ちなみにマット・デイモンは、ごつい機械を体に取り付けられた状態だと映画『ダークナイト ライジングThe Dark Knight Rises)』(2012)に出てくる悪役ベインに見えて仕方ありませんでした。