映画『トゥ・ザ・ワンダー』のレビューで目にした「elusive」の意味とは?

先日、映画の無料チケットが手に入ったので、ジェガーさんとテレンス・マリック(Terrence Malick)監督の最新作『トゥ・ザ・ワンダーTo The Wonder)』(日本は8月公開)を観てきました。

Mont St. Michel


私がこの映画に興味を持った最大の理由は、この作品が今月4日に他界した映画批評家ロジャー・エバート(Roger Ebert)の最後の批評作だったこと。というわけで、さっそく彼のレビューを読んでみました。すると、

There will be many who find “To the Wonder” elusive and too effervescent.

via To the Wonder Movie Review & Film Summary (2013) | Roger Ebert

という部分が気になりました。

ポイント

“elusive” はこの場合、「とらえどころのない」という意味で使われています。

elusive | Longman Dictionary

  1. an elusive person or animal is difficult to find or not often seen
  2. an elusive result is difficult to achieve
  3. an elusive idea or quality is difficult to describe or understand

(人や動物に使われると「見つけにくい」、結果に使われると「達成しにくい」、そして考えや質に使われると「表現しづらい、理解しづらい」という意味になるんですね!)

つまり、「『トゥ・ザ・ワンダー』はとらえどころがなく、生き生きしすぎていると捉える人もたくさんいるだろう」と書かれていたんですね。

補足

私は『トゥ・ザ・ワンダー』をまさに “elusive” な映画と思った一人です。むしろ、テレンス・マリック監督の映画はどれもそんな印象があります。

『トゥ・ザ・ワンダー』に対しては酷評も目にしていたので、私はロジャー・エバートさんがどんな批評を書いたのかとても興味がありました。さっそく読んでいきたいと思います。

前作『ツリー・オブ・ライフThe Tree of Life)』から2年足らずで公開されたテレンス・マリック監督の『トゥ・ザ・ワンダー』は、重要な登場人物が数えるほどしかいません。そんな彼らの、人生におけるいくつかの重大な瞬間が収められています。一応会話はありますが、夢見心地な感じで、半分くらいしか聞こえません。哀愁ただよう音楽をのぞけば、もはや無声映画と言ってもおかしくありません。

Released less than two years after his “The Tree of Life,” an epic that began with the dinosaurs and peered into an uncertain future, Terrence Malick’s “To the Wonder” is a film that contains only a handful of important characters and a few crucial moments in their lives. Although it uses dialogue, it’s dreamy and half-heard, and essentially this could be a silent film — silent, except for its mostly melancholy music.

物語は、まずベン・アフレック(Ben Affleck)演じるニールが、旅先のフランスでフランス人美女マリナ(オルガ・キュリレンコ / Olga Kurylenko)と恋に落ちて、恋は盲目状態になっているところから始まります。背後にはモン・サン・ミッシェル(Mont St. Michel)。

その後ニール(Neil)の誘いで、シングル・マザーのマリナ(Marina)は娘のタティアナ(Tatiana)を連れてアメリカへ。ニックの故郷オクラホマ(Oklahoma)州には、人はあまりいません。そこで暮らしていくうちに、2人の愛情にはすれ違いが増していきます。そしてニールは、地元でかつて恋に落ちたジェーン(レイチェル・マクアダムス)と再会。

オクラホマ州には、ハビエル・バルデム(Javier Bardem)演じる神父さんがいます。彼の語る言葉の多くはキリストに向けられています。神父さんは囚人や、病気の人や、貧しい人などのもとを訪れますが、やはりここでも会話は(彼らにとってすら)はっきり聞こえていません。

マリック監督はこれらを緻密に美しく、絵画のように丁寧に描いていきます。雰囲気は『ツリー・オブ・ライフ』の最初の方のシーンと似ています。

映画が始まった時、エバートさんは何か物足りないような感覚があったそうです。でも観続けるうちに、映画の多くは、たくさんの要素が排除できるのではないかと思い直しはります。マリック監督は有名な俳優を起用していますが、ロベール・ブレッソン(Robert Bresson)監督が俳優を「モデル」と呼ぶような感じで扱っています。ベン・アフレックは『アルゴArgo)』のスターではなく、ただの男で、たいてい無口。愛に夢中になったと思ったら、次は喪失にとらわれます。故郷から遠く離れた神父さんも、これまでにない感じで未婚の聖職者の寂しさを感じさせます。日中誰もいない教会を歩き回る彼は、孤独で、キリストと心を通わせることを求めています。

As the film opened, I wondered if I was missing something. As it continued, I realized many films could miss a great deal. Although he uses established stars, Malick employs them in the sense that the French director Robert Bresson intended when he called actors “models.” Ben Affleck here isn’t the star of “Argo” but a man, often silent, intoxicated by love and then by loss. Bardem, as a priest far from home, made me realize as never before the loneliness of the unmarried clergy. Wandering in his empty church in the middle of the day, he is a forlorn figure, crying out in prayer and need to commune with his Jesus.

従来の映画なら、これらの登場人物には物語があって、動機などももっと明確にされています。でも、マリック監督は、最もロマンティックでスピリチュアルな映画監督の一人。観客の前にありのままをさらけだしています。彼はビジョンの深さを隠すことができない人なのです。

「でも、ええんちゃうの?」とエバートさんは自分に問いかけます。「なんで映画は全部を説明する必要があんの?」「なんでいちいち動機が明らかにされなあかんの?」「多くの映画は根本的には同じ映画で、具体的なところだけ変わってるんじゃないの?」「多くの映画は、同じ物語を伝えてるんじゃないの?」・・・

“Well,” I asked myself, “why not?” Why must a film explain everything? Why must every motivation be spelled out? Aren’t many films fundamentally the same film, with only the specifics changed? Aren’t many of them telling the same story? Seeking perfection, we see what our dreams and hopes might look like. We realize they come as a gift through no power of our own, and if we lose them, isn’t that almost worse than never having had them in the first place?

この映画をつかみどころのない映画だと思う人は多いだろう、とエバートさん。彼らはきっと、何かを与えるというより喚起するような映画には満足しません。それはエバートさんはわかっています。おそらく、マリック監督も。でもマリック監督は、それよりもっと深いところにたどり着こうとしています。表面下へ降りていって、救いの必要な魂を見つけようとしているのです。

There will be many who find “To the Wonder” elusive and too effervescent. They’ll be dissatisfied by a film that would rather evoke than supply. I understand that, and I think Terrence Malick does, too. But here he has attempted to reach more deeply than that: to reach beneath the surface, and find the soul in need.

このレビュー、マリック監督の影響を受けているのか、詩的な部分が多いですが、とても好きです。映画を観終わった時、私はこの映画を正直どう受け止めたら良いのかわかりませんでした。でも、エバートさんのレビューを読んで、心がすーっとなりました。

エバートさんもレビューの中で、映画を観ながら自分自身にさまざまな問いかけをした様子を書いていますが、この映画はまさに、映画そのものの本質に迫る作品だと思います。

個人的にこの映画を観て強く心に残ったのは、光でした。光の使い方を、マリック監督はものすごく計算していると思います。やたら夕方のシーンが多いのも、夕方の光が印象的な効果を生み出すからなんじゃないかと思ったり。夕方の光は、私も大好きです。夕方の光は、本当に人を美しく照らしてくれます。

この映画は、全てのカットを額に入れて飾ることができる映画だと思いました。美術館で『To The Wonder』のカットが額に入れて飾ってあっても、全然違和感ないと思います。『To the Wonder』展、ぜひやってほしいです。

私の言葉も2人の影響を受けて、ちょっと詩的になりつつあるので、このへんでやめます。

※アイキャッチ画像:By Michal Osmenda from Brussels, Belgium (Mont St. Michel Uploaded by russavia) [CC BY-SA 2.0], via Wikimedia Commons