映画『オデッセイ』ができるまで
先日公開された、リドリー・スコット監督最新作の映画『オデッセイ』。これは、2011年に出版された小説『火星の人(The Martian))』が原作になっています。
主人公のマーク・ワトニーは、火星の有人探査ミッションに従事していた宇宙飛行士。ところがミッション遂行中に発生した嵐から避難中、事故に巻きこまれて仲間からはぐれ、一人火星に取り残されてしまいます。次の探査機がやってくるのは4年後。しかし手元には31日分の食料しかありません。マークはなんとかあらゆる手で、科学を武器に生き残ろうとします。
科学的に見ても正確なストーリー
こういう SF 映画がリリースされると、最近はすぐに「科学的に見てどこまで正しいか」が検証される気がしますが、今回もさまざまなメディアで検証されていました。どうもこの映画、科学的に見ても「かなり正しい」みたいです。
しかし、私としては、「どうやってここまで “科学的に正しい” SF ストーリーが書けるのか」の方が気になったので、いろいろ調べてみたところ、小説『火星の人』の著者であるアンディー・ウェアさんの話が驚愕でした。
『オデッセイ』誕生の背景
素粒子物理学者(particle physicist)と電子工学技術者(electronics engineer)の両親のもとに生まれたアンディーさんは、幼い頃から理系少年。特にプログラミングに興味を持ち、有名なゲーム『ウォークラフト2』のコードも書いていました。ところが、しばらく務めた AOL が1999年に Netscape と合併し、アンディーさんはレイオフに。それを機に以前から興味があった小説を書き始めますが、エージェントや出版社に持ち込んでも軒並み却下されるばかりだったそうです。
それでもアンディーさんは情熱を失わず、今度は自分のウェブサイトに書いた小説を一般公開するように。『オデッセイ』もそのような形で、アンディーさんは最初ウェブ上で執筆していたそうですが、だんだんファンが増えていき、しかもそのファンたちが「そこは科学的におかしい」と指摘してくれるようになったそうです。そこでクラウド編集機能を取り入れて誰でもチェックできるようにしたところ、小説の精度が一気に向上。ファンの多くは科学者で、どんどん事実確認してくれたとか。だから専門家の目から見ても「科学的に正しい」小説に仕上がったんですね〜!
レイオフから一転、SF 作家へ
小説が終わると、アンディーさんは無料の電子書籍という形でウェブサイトに公開しましたが、ファンから「Kindleでも読みたい」との声を受け、Amazon で99セントで販売開始。すると瞬く間に3万5千部を売り上げ、SF 小説のベストセラーリストに入るという快挙を達成。まもなくエージェントの方から連絡が来て、大手出版社のランダムハウスから出版することになり、あれよあれよという間に Fox が映画権を獲得。まさに、アメリカンドリームです。
From Book to Blockbuster, The Inspiring Story of ‘The Martian’ – Biography.com
宇宙飛行士の話ではありますが、マーク・ワトニーが極限の状況でもがきながら地道に生き残る術を探っていく過程は、アンディーさんのレイオフ当時の心理状況にも似るところがあったかもしれません。だからこそ、日常生活とはかけ離れた設定であっても、当事者の感情を的確に描写することができたのではないでしょうか。
私はこういう、人間の本質を捉えた SF 作品がとても好きです。