エマニュエル・ルベツキを唸らせた映画『ROMA』の撮影手法

惜しくも劇場公開を逃し、Netflix で自宅鑑賞したスペイン映画『ROMA/ローマ』。

しかしその後アカデミー賞が発表され、私の愛するシネラマ映画館(Cinerama)で受賞作が一挙再上映されることが決定したので、運良く映画館で『ROMA/ローマ』を観ることができました!

2回観て思いましたが、やっぱりこの映画、傑作です。観れば観るほど発見に満ちています。

物語が良いのはもちろん、表現が非常に凝っていて、映画としての完成度が極めて高い作品だと思います。

特にそう思った演出の一つがカメラワークと編集なんですが、何と撮影と編集もアルフォンソ・キュアロン監督が自ら担当していてびっくり。

キュアロン監督と言えば、『ゼロ・グラビティ』でも組んだエマニュエル・ルベツキさんがいつも撮影をしているイメージがありますが、『ROMA/ローマ』 に対する2人の対談記事が上がっていたので読んでみました。

キュアロン監督は元撮影監督

映画『ROMA/ローマ』 も、元々はルベツキさんが撮影監督をする予定だったそうですが、撮影スケジュールが108日にも及ぶことが判明した時点で「無理」となり、元々撮影監督だったキュアロン監督が自分で手がけることになったとか。

Three-time Oscar-winner Lubezki started to prep the film but when the “Roma” shooting schedule ballooned to over 108 shooting days, he was no longer able to commit to the schedule and Cuarón, who trained as a cinematographer, took on the task himself.

Cuarón Tells Lubezki How He Filmed ‘Roma’ — Even One Quiet Shot Needed 45 Camera Positions – IndieWire

トロント国際映画祭(Toronto International Film Festival)での Q&A によると、ルベツキさん以外にも候補は思い浮かんでいたそうですが、英語でのコミュニケーションを考えると気が進まなかったそうです。

キュアロン監督は、ルベツキさんと共に通っていた映画学校時代では撮影監督として学んでいて、その後テレビの現場で撮影を何本もこなしています。でも映画の撮影を全て手がけたのは今回が初めてだったとのこと。

それでアカデミー賞で撮影賞を受賞してしまうんですから、もう才能が半端ありません。

ちなみに5年くらい前の The Hollywood Reporter のインタビュー記事によると、2人とも、尖りすぎて映画学校を退学させられていたそうです。

キュアロン監督のこだわり

これまでアカデミー賞撮影賞を3回受賞しているルベツキさんの目から見て、映画『ROMA/ローマ』の撮影手法はとても型破りとのこと。

そもそも白黒で撮影されているのも、ルベツキさんにとっては意外な選択でした。でも、キュアロン監督には「1971年当時の自分を、現在の自分の視点から振り返りたい」という明確な動機があり、それを実現するためには白黒かつデジタル映画という表現がぴったりだったそうです。

ルベツキさんは他にも、カメラが役者の動きを並行して追っていたり、役者とカメラが異なるスピードで動いていたり、役者たちが脚本を見ることなく撮影に臨んだりしていた点を挙げて「普通とは違う」と語っていました。

確かに映画『ROMA/ローマ』は、演技というより役者たちのありのままの感情が現れていて、それを私がスクリーンの向こうから「目撃」している感じだったのが新鮮でした。

そんなルベツキさんにとって印象に残るシーンは、映画館のシーンだそうです。映画館という暗い場所で、遠くのスクリーンまでしっかり映し出して奥行きを見せるのは難しく、さらに上映が終わって館内が明るくなる様子まで含むとなると絶妙な光の加減が必要とのこと。それに対しキュアロン監督が「『ゼロ・グラビティ』からヒントをもらったんだよ」と言うのを聞いて驚いていました。

EL: Inside the movie theater with interactive light, you shoot naturalistically with a lot of depth. That combination is not simple. It requires that you have a deep stop and that means you need a lot of light. In this particular scene you can see what’s being projected, see the lighting on [the characters], there’s a fill light, so you can see who they are. Then there’s a big change of light. This scene, even for a very old tested cinematographer, is a nightmare. How did you do it?

AC: I don’t want movie lights. I want the scene to be lighting everything in sync with the projection. Projecting 35 mil is not enough light, 65 we can’t afford, we don’t have a big F stop. Shoot 35 open as much as possible, with the F stop you lose the depth the field. So you need power. The solution of how do it was informed by “Gravity” LEDs. We changed the screen for LED lights that would be projecting, and then replaced later in post-production for 35 mm projection. To reach our characters, on top of the screen there was a smaller LED with lesser intensity that was in sync. And also I rounded a bit on the sides. The challenge was the change of light when the lights come up.

EL: Amazing.

Cuarón Tells Lubezki How He Filmed ‘Roma’ — Even One Quiet Shot Needed 45 Camera Positions – IndieWire

私は、好きなシーンがいっぱいありますが、やっぱり海のシーンはとても印象的でした。

住み込みの家政婦として淡々と過ごしていた日常が突如ドラマティックに変化し始め、非現実的な現実を飲み込めずにただ受け入れていくしかなかったクレオが、初めて吐き出す本音。

その後また日常に戻る時、それまでただ横に動いていたカメラがおもむろに縦に上がり始め、なんの遮りもない広い空を飛行機が自由に横切る様子が映し出された瞬間、それまでクレオの感情が実はいろいろな形で画面に映し出されていたことに気づかされました。

9割実話に基づいたラブレター

この映画は、9割方キュアロン監督の幼い頃の記憶に基づいていると本人が語っていますが、海のシーンも本当に起こった出来事だったそうです。

ちなみにキュアロン監督は、上から2番目の男の子。

映画の最後には “For Libo” と出てきますが、リボさんこそ実際のクレアであり、この映画はリボさんのために作られたとても個人的なラブレターだったそうです。

それでもタイトルが『ROMA』(原題)となっているのは、リボさんを始め、他の3人のきょうだいや、母や父、そして暮らしの拠点となったメキシコシティのローマ地区への愛が深く深く込められた作品だったと言えます。

ルベツキさんは映画『ROMA/ローマ』を「最も好きな映画の一本」と絶賛していましたが、私にとっても間違いなく、最も好きな映画の一本です。

私の好きな映画作品