対比が深すぎる映画『甘い生活』(1960)

現在自宅療養中のジェガーさん。楽しみは専ら映画を観ることで、新旧さまざまな映画を観まくっています。

先日はフェデリコ・フェリーニ監督の代表作の一つ『甘い生活(La Dolce Vita)』(1960)を観るということで、私も今まで観たことがなかったので一緒に観てみました。

でも私は実は、フェデリコ・フェリーニ監督作はちょっと苦手。これまで『8 1/2』(1963)や『フェリーニのアマルコルド』(1973)を観てきましたが、どれもいまいち腑に落ちず、退屈な感想しか残りませんでした。『フェリーニのアマルコルド』に至っては、途中で寝る始末。

すると、『フェリーニのアマルコルド』上映中に、私に悲劇が。なんと、猛烈な眠気に襲われたのです。一生懸命目を開けようとしましたが、目を開けようと思えば開けるほど、目が閉じていきます。危機です。

一応なんとか映画は観たのですが、もはや何の感想も残っていません。いつもなら映画の後の帰り道はバスの中でジェガーさんとひたすら映画について語り合うのですが、その日はずっとジェガーさんの肩にもたれかかって寝てました。

テキストに書かれていた「get off work」の意味とは? : ツカウエイゴ

甘い生活』も途中までかなり退屈だったのですが、そんな私の雰囲気を察知したのか、ジェガーさんが映画をストップして散歩に行くことを提案。私もそのまま観続けたいとあまり思わなかったので、賛成して外に出ました。

日が沈んだ後、完全に暗くなるまでの「マジックアワー」の時間帯に、気持ちの良い風を浴びながらジェガーさんと海岸沿いの公園を歩いていると、なんだか現実ではないみたいです。「この時間が永遠に続いたら良いのにな〜」と口に出した瞬間、『甘い生活』のワンシーンが頭をよぎりました。

それは、主人公のマルチェロがアメリカの女優を追いかけ、夢のような夜のひとときを過ごすも、明け方にふと現実に戻るシーン。

思えばマルチェロには、作家として生きたいという願望があります。でも実際はしがないゴシップ記者。パパラッチたちとローマを駆け巡るばかりで、なかなか落ち着いて自分の作品に取り組むことができません。友人のスタイナーのような、美しい妻や非の打ち所のない子どもたちとオシャレなアパートで優雅に暮らす生活に憧れるも、婚約者とはなかなかうまく行かず、毎晩理想の女性を追い求めて夜の街に繰り出してしまいます。

そこでその「願望と現実の対比」について考察したことをジェガーさんに発表すると、「(大映画評論家の)故ロジャー・エバートさんも同じこと言ってたな〜」と言われました。そこで帰宅後さっそくロジャー・エバートさんの批評を読んだところ、ロジャー・エバートさんの批評が実に美しかったので、ちょっとご紹介します。

ローマの七つの丘で、七つの晩と七つの明け方に起こる7つの大罪をまとめた説

I have heard theories that Federico Fellini’s “La Dolce Vita” catalogs the seven deadly sins, takes place on the seven hills of Rome, and involves seven nights and seven dawns, but I have never looked into them, because that would reduce the movie to a crossword puzzle. I prefer it as an allegory, a cautionary tale of a man without a center.

(フェデリコ・フェリーニの『甘い生活』は、ローマの七つの丘で、七つの晩と七つの明け方に起こる7つの大罪をまとめたものだという説があるが、それらを確かめたことはない。なぜなら、そうすれば映画がただのクロスワードパズルになってしまうからだ。それよりも、これは芯のない男性の寓話であり、訓話であると私はとらえたい。)

La Dolce Vita Movie Review & Film Summary (1960) | Roger Ebert

「ローマの七つの丘で、七つの晩と七つの明け方に起こる7つの大罪をまとめた」という説は私も知りませんでしたが、主人公マルチェロを演じた俳優の名前がマルチェロさんであることも私は知りませんでした。

The two Marcellos — character and actor — flowed together into a handsome, weary, desperate man, who dreams of someday doing something good, but is trapped in a life of empty nights and lonely dawns.

(2人のマルチェロ〔登場人物と俳優〕が融合し、いつか何か良いことをしたいと願いつつも、空虚な夜と寂しい夜明けの繰り返しの人生から抜け出せない、ハンサムで、疲れ気味で、必死な男となっている。)

La Dolce Vita Movie Review & Film Summary (1960) | Roger Ebert

夜と朝の対比、オープニングとエンディングの対比

私は「理想と現実」の対比にしか気がつきませんでしたが、ロジャー・エバートさんは「夜と朝」の対比にも気づいていらっしゃいます。

Another dawn. And we begin to understand the film’s structure: A series of nights and dawns, descents and ascents.

(また夜明け。私たちはだんだん映画の構造を理解し始める。夜と朝、そして上昇と下降の連続であるということを。)

La Dolce Vita Movie Review & Film Summary (1960) | Roger Ebert

対比はさらに続きます。なんと、映画のシーン同士も対比しているというのです。ロジャー・エバートさんが指摘するのは、オープニングとエンディングのシーン。

The famous opening scene, as a statue of Christ is carried above Rome by a helicopter, is matched with the close, in which fisherman on the beach find a sea monster in their nets. Two Christ symbols: the statue “beautiful” but false, the fish “ugly” but real. During both scenes there are failures of communication.

(有名なオープニングシーンでは、キリスト像がヘリコプターでローマ上空を運ばれているが、それは最後の、漁師たちが海辺で網に掛かった海の生物を見つけるシーンに一致する。そこには二つのキリストの象徴が描かれる。「美しい」けれども贋物の像と、「醜い」けれども本物の魚。どちらのシーンでも、コミュニケーションの失敗が描かれる。)

La Dolce Vita Movie Review & Film Summary (1960) | Roger Ebert

ここまで読むと鳥肌が立ちます。このレビューを読んだ時点では私はエンディングシーンを見ていなかったので、魚のシーンを観るべく、再びジェガーさんと映画の続きを見始めました。

すると、さっきまでめっちゃ退屈だと思っていたのに、今度はめちゃめちゃ映画が面白いです。『甘い生活』、傑作です!

この3年後に、フェリーニ監督はマルチェロさんと『8 1/2』を制作。『8 1/2』は2回観て2回ともいまいちよく理解できずに終わりました(1回目はやっぱり途中で寝ました)が、今なら『8 1/2』も楽しめる気がします。近々もう一度見直したいと思います。

フェリーニ監督が好きになりました