高校生の「世界」をリアルに描いた映画『桐島、部活やめるってよ』

私は普段ブログで洋画ばかり取り上げていますが、邦画もめちゃ好きです。ただ、こちらにいると、観たい邦画が観られるチャンスはかなり限られます。カンヌ国際映画祭やアカデミー賞などで評価された作品ならアメリカでも公開されるのですが、それ以外の映画はなかなか観る機会がないからです。

The Kirishima Thing

そんな私が2012年の公開時からめちゃ観たいと思っていた作品がありました。『桐島、部活やめるってよ(The Kirishima Thing)』です。
桐島、部活やめるってよ (本編BD+特典DVD 2枚組) [Blu-ray]
現在2014年ですが、1年半越しで観たい観たいと想いを寄せていたこの作品。前回2012年の年末に一時帰国した時はもうすでに映画館での上映はほとんど終わっていて、関西では大阪の梅田で一館だけ上映しているところが見つかったのですが、私が関西に着く頃にその上映も終わってしまいました・・・

そんな悲願の『桐島、部活やめるってよ』と、先日ここアメリカの地で遭遇。なんと、Blu-ray を持っている方と出会えたのです!

「DVD は規格が異なるからアメリカの機器では再生できないけど、Blu-ray だったら普通に観られるよ」
「!」

さっそく頼み込んで、Blu-ray を貸していただき、家に持って帰ってくるやいなやジェガーさんに報告。

「2013年の日本アカデミー賞作品賞を受賞した『桐島、部活やめるってよ』の Blu-ray 借りてきたー!」
「おお〜」
「1年半越しの夢を今から叶えるで〜!」
「あっでもそれ、日本の Blu-ray?」
「せやで。DVD は規格が異なるからアメリカの機器では観られへんらしいけど、Blu-ray やったら大丈夫やって!」
「でも、それってもしかして・・・英語字幕ないんちゃうん?」
「!」

・・・日本の Blu-ray に英語字幕がないことをすっかり忘れていました。

「Blu-ray は DVD より進化してるはずやから、もしかしたら英語字幕あるかも!」と言って字幕オプションを調べてみましたが、あるのは日本語字幕のみ。ジェガーさん、観られません。

「一人で観るの嫌や〜」
「でも、意味わからんのに観るのも嫌や〜」

ということで結局私一人で観ることになりました。ジェガーさんと観られないのは残念ですが、1年半越しの夢をここで諦めるのも無念すぎます。

一人で映画を観るのはさびしかったですが、観たい映画がついに観られたのは最高でした。

特典映像は DVD だったので再生できなかったのですが、『桐島、取り扱い説明書』なるものがケースの中に入っていたので、「桐島、説明書あるってよ」ということで説明書もチェック。

なかでも最も興味をそそられたのは、原作者の朝井リョウさんのコメントでした。

子どものころ、世界地図はひとつしかないと思っていました。日本を中心に描かれたあの見慣れた形のものです。しかし大人になるにつれて、いろんな国が中心に据えられた地図があることを知りました。僕はこの小説の中で、【クラス内ヒエラルキーの上下が逆転する】とか、そういうことを書きたかったわけではありません。ひとつしかないと思っていた「中心」は、実は、たくさんある。じゃあ、何を中心に置いて自分の人生の地図を描いていくのか — 菊池宏樹がその気づきに出会う瞬間が、この物語の「核」です。

via 原作:「桐島、部活やめるってよ」朝井リョウ | 桐島、取り扱い説明書

これを読んだ時、私はふと気になりました。朝井さんは高校時代、映画に出てくる登場人物の、誰に一番近かったんやろう・・・?

上のコメントからすると、なんとなく菊池宏樹っぽい気もしなくはないですが、インタビュー記事をいろいろ見ていると以下のコメントを発見。

体育館での部活のシーンなどは、自分自身が高校時代バレーボール部だったので、そのときの記憶が元になっています。

via やっぱり、「カッコイイ!」に憧れます|特集|Reader™ Store|ソニー

・・・バレーボール部やったんかい!

バレーボール部といえば、桐島です。まさか・・・と思いましたが、別のインタビューにこんなことも書いてありました。

朝井 ここにはたくさんのキャラクターが出てくるんですけど、そのどれにもぼくのどこかしらの部分があるというか、全員、高校時代の自分の分身のような感じがします。

via 桐島、部活やめるってよ「対談」

こっちの方がしっくりきます。

私自身、中高時代は陸上部の長距離に所属していたのですが、陸上部の花形はやっぱり短距離なので、なんとなくいつも引け目を感じつつ頑張っていたのを覚えています。クラスでも、かわいい女子がやっぱり目立つので、元気だけが取り柄の私はなぜかおもろい路線で目立とうとしていました。あの頃は私も私なりにあの小さな世界の中で必死にサバイバルしようとしていたのを覚えています。

大学に入って、自分にとっての「世界」は少し広くなりましたが、世界の「中心」がたくさんあると「本当に」気づいたのは、アメリカに来てからです。朝井さんがこの本を書いた時は19歳だったそうですが、早くにその「気づき」に出会うだけでなく、こうして物語にまで落とし込んだというのはやはり相当だと思わざるをえません。

朝井さんは、物語の中に必ずある「核」のシーンに最大の説得力を持たせるために、何万字という小説を書いているそうです。原作と映画は構成も内容も完全に同じではないようですが、朝井さんからすると、「吉田監督は吉田監督のやり方で、そのシーンに辿り着くまでに最高の説得力を生み出してくださいました」とのこと。「核」さえ同じであれば細かい部分が変更されるのは全然気にならなかったそうです。

実際、映画評論家の町山智弘さんの解説を読むと、吉田大八監督が映画の話法を駆使して「核」のシーンに辿り着いていることはめちゃくちゃ読み取れます。

実は私の手持ちの iPad mini にはしばらく前から『桐島、部活やめるってよ』の小説が入っていました。でも、まだ手をつけていません。映画を観たら読もうと心に決めていたのです。

今、読むのがめちゃくちゃ楽しみです。
桐島、部活やめるってよ (集英社文庫)