名作パズルゲーム『ポータル』の「グラドス」役が生まれるまで

名作パズルゲーム『ポータル』をご存知でしょうか。空間移動ができる「ポータル」を作って部屋に仕掛けられたパズルを解き、次の部屋に進んで行くというゲームです。パズルゲームが好きな私も、ジェガーさんと一緒に一時期はまりました。

ポータル』はただのパズルゲームではなく、物語性も込められています。特にファンが愛してやまないのが、「グラドス(GLaDoS’)」と呼ばれる冷徹なコンピューターの声。Siri の愛想がないバージョンという感じで、淡々と嫌みを投げかけてくるのですが、この声にはまる人が続出しました。

その「グラドス」の声を担当している声優さんに、私は会ったことがあります。

夫婦共に声優

それは、あるパーティーに参加した時のこと。ジェガーさんの知り合いのご夫婦と盛り上がっていると、ふと「この人がグラドスの声の人やで」と紹介されて、びっくり。目の前で「ふふふ」と笑う穏やかな女性は、どっからどう見ても冷徹な「グラドス」とイメージが一致しません。

しかも、旦那さんもゲーム『チームフォートレス2』というゲームに出てくるスナイパーの声の人だと聞いてさらにびっくりしました。

The celebrity of the characters they portray may not be readily apparent for the ​minority of Americans who don’t play video games. But the games they have worked on have won multiple British Academy Awards (the UK Academy Awards have a video game category), sold out 10,000-seat stadium esports events in under an hour, and raked in hundreds of millions of dollars annually for at least one of their publishers.

(テレビゲームをしない人にとっては、彼らの演じるキャラクターがどれだけ有名かすぐにはわからないかもしれない。しかし、彼らがかかわったゲームは英国アカデミー賞でいくつもの賞を受賞し〔英国アカデミー賞にはゲーム部門がある〕、スタジアム・イベントで用意された1万座席は1時間で完売。少なくとも1つの制作元だけで年間数億ドルを荒稼ぎしている。)

GLaDOS and The Sniper: A Voice Acting Love Story | Motherboard

ジェガーさんと二人の繋がりのきっかけは、ジェガーさんが二人を取材して記事にしたこと。この記事で紹介している引用は、すべてジェガーさんが書いた Motherboard の記事『GLaDOS and The Sniper: A Voice Acting Love Story』のものです。

元は音楽家と女優

2人とも、もともと声優だったわけではありません。夫のジョン・パトリック・ローリーさんは元音楽家で、妻のエレン・マクラインさんは元ブロードウェイ女優。2人の出会いは、ブロードウェイ・ミュージカル『ショウ・ボート(Show Boat)』のヨーロッパ・ツアーでした。

そのミュージカルでヒロインのマグノリア役を務めたのがエレンさん。ジョンさんは舞台下のオーケストラ団の中にいたそうです。ところが楽団員よりも俳優の方が稼ぎが良いことを知ったジョンさんは、俳優のオーディションに挑戦。見事役柄を勝ち取り、アンディ船長の代役として舞台に出たのがジョンさんの初舞台となりました。(ジョンさんはオーケストラ団の中でバンジョーを弾いていて、バンジョーを舞台の上に持ち込むアイデアを提案したそうです。)

それでジョンさんとエレンさんは恋に落ちますが、2人には大きな障害がありました。なんと、2人ともそれぞれ婚約者がいたのです。でも、どちらも婚約者と別れる決断をし、2人は一緒に。

“Nobody was really happy about it, because I think John and I really loved our fiancés. But not like we loved each other.”

(まわりにはあまり喜ばれませんでした。どちらも婚約者のことを本当に愛していたからだと思います。でも、お互いを愛する気持ち程ではありませんでした。)

GLaDOS and The Sniper: A Voice Acting Love Story | Motherboard

そんなドラマチックな展開ってほんまにあるんや、という感じですが、その後2人は現在に至るまで、28年間仲睦まじく過ごしておられます。

偶然から生まれたグラドス

シアトルには特にあてもなく移って来たそうですが、シアトルはゲーム業界のメッカの一つ。まもなく2人の才能はゲーム制作者に発見されました。

Originally, GLaDOS was inspired by a generic text-to-speech program which Ellen was simply asked to imitate. Getting the rights to use the actual program in Portal didn’t make economic sense, since using the text-to-speech program would have required Valve to give up a percentage of every sale of Portal to the text-to-speech developer.

(もともとグラドスは、文字の音声変換プログラムをエレンに真似てもらったところから生まれた。プログラムを使用する権利を得ようとすると、ポータルの売上の一定割合をプログラム開発者に支払うことになり、経済的に困難だったためだ。)

GLaDOS and The Sniper: A Voice Acting Love Story | Motherboard

ところが結果的に、エレンの声で人工知能に人間味が出たことで、ゲームのストーリーも大きく進化。伝説のエンディングシーンで流れる『Still Alive』という曲も、エレンさんが歌っています。(ネタバレが気になる人は閲覧にご注意ください。)

“We really just got lucky,” Wolpaw said, “because as the role expanded and got more complicated, she was able to rise to it. And then it turns out that she’s a trained operatic soprano, so at some point we were like, ‘oh, that would be great, let’s throw her a song she can sing.’”

(「ただただ本当にラッキーでした」と、〔ゲームの脚本を手がけた〕ウォルパウ氏は言う。「役が広がり、より複雑になるにつれ、彼女はさらに良くなりました。そして彼女がオペラのソプラノ歌手として鍛えられていたことが判明し、『素晴らしい。なら彼女が歌える歌を歌ってもらおう』となったんです。」)

GLaDOS and The Sniper: A Voice Acting Love Story | Motherboard

コンピュータの声として定着

このゲームで彼女の声は一躍有名となり、映画『パシフィック・リム』(2013)にも登場。

NASA とのコラボレーションまで実現しています。

実は密かに、『Portal』の制作元 Valve の留守番電話の声も、エレンさんだそうです。

そんなエレンさん、実は『Still Alive』以外にもう一曲、ジョンさんと作曲してはりました。その曲も現在 YouTube でも聞けるようになっています。

ジェガーさんと私も、ジョンさんとエレンさんのように、時代の流れに柔軟に適応できる夫婦であり続けたいです。

 

SNS

 

ジェガーママから "If Riho was a squirrel." というメッセージとともにこの写真が送られてきました。異論はありません。

ツカウエイゴさんの投稿 2015年4月8日水曜日