映画『ダンケルク』を理解する

今年私が最も楽しみにしていた映画の一つが、クリストファー・ノーラン監督最新作『ダンケルクDunkirk)』。でも、実は私、映画を観るまでこの「ダンケルク」と言う場所で起こったことについて、ほとんど理解していませんでした。

 

イギリスでは有名な「ダンケルクの奇跡」

 

ダンケルクと言えば、イギリスでは「ダンケルクの奇跡」としてよく知られています。クリストファー・ノーラン監督も以下のインタビューで以下のように語っていました。

Like most British people, I’d grown up with the story of Dunkirk. You learn it as a kid. I don’t even remember the first time I heard about it. And, for British people, it’s more than just a piece of history, it’s part of the culture. People in Britain talk about the ‘Dunkirk Spirit.’ You know, that’s something really about human spirit, about coming together in the face of adversity, and it comes from this incredible event in 1940. (1:20)

(たいていのイギリス人と同じく、私もダンケルクの話を聞いて育ちました。ダンケルクについては、子どもの頃に学びます。私自身、初めて聞いたのがいつかも覚えていません。イギリス人にとって、ダンケルクの話は単なる歴史の一部ではなく、文化の一つです。「ダンケルク精神」についてイギリス人は話しますが、ダンケルク精神とは、逆境に面した時に団結する人間の精神のことです。そしてそれは、まさに1940年に起こったこの信じられない出来事から来ているのです。)

(12) ‘Dunkirk’ Director And Actor: It’s ‘One Of The Greatest Stories In Human History’ | TODAY – YouTube

イギリスではよく知られた歴史ということもあってか、映画では背景事情はほとんど説明されていません。何も知らない場合はある程度予習してから観に行った方がいいです。

 

「ダンケルクの奇跡」とは?

 

では一体、ダンケルクで何が起こったのでしょうか。そもそもダンケルクはイギリスではなく、フランスにあります。

第二次世界大戦は1939年、ドイツがポーランドに侵攻する形で始まりました。するとすぐにイギリスとフランスが宣戦布告して参戦。しかし1940年5月、イギリスとフランスの連合軍約40万人がドイツ軍によって追い詰められてしまいました。その場所こそ、フランスのダンケルクです。

この時、イギリスの首相は就任したばかりのウィンストン・チャーチルさんでした。彼はこの状況に対し、異例の「撤退」を決断します。しかし、ダンケルクは遠浅の海岸で大型船が近寄ることは難しく、多くの兵士が海岸に取り残されてしまいました。そこでチャーチル首相の呼びかけに応じ、多くの民間人たちが兵士たちを救出しに、戦線へと向かったのです。

Dunkirk Evacuation shipping routes.png
By Strait_of_Dover_map.png: User:NormanEinstein
derivative work: Diannaa – This file was derived from
 Strait of Dover map.png
Information on shipping routes from Thompson, Julian (2011) [2008]. Dunkirk: Retreat to Victory. New York: Arcade. ISBN 978-1-61145-314-0. Map, page 223., CC BY-SA 3.0, Link

遠浅の海岸に長い桟橋をこしらえて救出船を寄せる「ダイナモ作戦」によってイギリスが救出を目指した兵士の数は、約4万5千人。それに対し、実際に救出された兵士の数はなんと33万人以上でした。まさに「ダンケルクの奇跡」です。

 

戦争映画というよりもサスペンスドラマ

 

映画は、ダンケルクの海岸に取り残された兵士たちの一人を描くところからスタートします。

主な中心人物は、3人。海岸に取り残された若い兵士(フィオン・ホワイトヘッド)、ダンケルクの兵士たちを助けに向かう民間人(マーク・ライランス)、そしてドイツ軍の空襲から兵士たちの救出を守る “スピットファイアー(Spitfire)” のパイロット(トム・ハーディー)。個人的には、ケネス・ブラナーさん演じる海軍中佐も重要人物の一人と言えます。

映画はとにかくセリフが少なく、兵士たちのバックグラウンドも政治的事情もほとんど説明されません。ただひたすら登場人物たちの目線で物語が展開していくので、まるでその状況を疑似体験している気分にさせられます。

絶体絶命に近い状況の中、このような驚異的な結果を導いたイギリス人の ”ダンケルク・スピリット” を描いた作品こそ、映画『ダンケルク』なのです。

 

映画館、特に IMAX で観るべき作品

 

『ダンケルク』は、大部分が IMAX カメラで撮影された 70mm 映画です。クリストファー・ノーラン監督の創り上げた世界観にどっぷり浸るために、IMAX または Cinerama で鑑賞することを特にオススメします。CG も極力使われていないので、もう、ど迫力。普通の映画館で観るのとは、映画体験が全く異なります。

私はもともとクリストファー・ノーラン監督が大好きで、彼の作品は全て観ているのですが、映画『ダンケルク』は新作なのにクラシック映画のような重みと厚みがあって圧巻でした。実際、サイレンス映画もいくつか参考作品として挙げられています。

ちなみに私が今回「ダンケルク」の参考にしたサイレント映画はまず、エリッヒ・フォン・シュトロハイム監督の「グリード」(1924年)と、F・W・ムルナウ監督の「サンライズ」(1927年)、それにD・W・グリフィス監督の「イントレランス」(1916年)です。

「ダンケルク」特集 クリストファー・ノーラン インタビュー (3/3) – 映画ナタリー 特集・インタビュー

クリストファー・ノーラン監督の優れた作家性が存分に発揮された映画『ダンケルク』、私は Cinerama で観ましたが、IMAX でぜひもう一度体験したいです。

 

私が最も好きなクリストファー・ノーラン監督の作品