ニューヨーク在住の日本人アーティスト夫婦を描くドキュメンタリー映画『キューティー&ボクサー』

アカデミー賞の発表が行われる前にできるだけノミネート作品を観る、というのが、この時期のジェガーさんと私の楽しみなのですが、先日アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門のノミネート作品をチェックしていたジェガーさんが、「なんか日本の作品あんねんけど」と言ってきました。

Cutie And The Boxer

それが、映画『キューティー&ボクサーCutie And The Boxer)』。

監督は日本人ではないのですが、ニューヨーク在住の日本人アーティスト夫婦を撮った作品で、今年のサンダンス映画祭(Sundance Film Festival)でドキュメンタリー部門監督賞を受賞しています。Hulu で観られるようになっていたので、さっそくジェガーさんと観てみました。
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現代美術家・篠原有司男、81歳。妻・乃り子、60歳。乃り子さんは19歳の時にニューヨークで有司男さんに出会い、2人は21歳の年の差婚を経て、間もなく結婚40周年を迎えようとしています。

この2人の関係がなんとも愛おしくて、ああこんな夫婦になりたいと何度も思いました。

2人は、始めからずっと愛くるしい夫婦でいつづけたわけではありません。作品が思うように売れず、有司男さんは長年アルコール依存症と格闘。一人息子を育てながら、乃り子さんはひたすら有司男さんと家庭を支え続けてきました。

芸術家として生計を立てていくのは、今も昔も難しいと思います。映画の冒頭でも、家計の工面に頭を悩ませる夫婦の姿が映ります。

それなのに、2人の元気なこと。生き生きしていて、全く年齢を感じさせません。2人が40年かけて積み上げてきた、お互いへの揺るぎない愛情と信頼が、画面上で爆発しているのです。

愛情に関しては、どちらかというと有司男さんの方が素直です。アメリカにずっと住んでいらっしゃるということもあるかもしれませんが、あるいはもともと愛情を素直に表現できる方なのかもしれませんが、乃り子さんに対して惜しみなく愛情を表現しています。

一方、乃り子さんは、面と向かって有司男さんに愛情を見せることはあまりしません。有司男さんが数日間家を離れて戻ってきた時なんて、チャイムが鳴るやいなや飛び出していくのに、有司男さんと会った瞬間「早かったじゃない」なんて、いつもの乃り子節に戻ります。有司男さんと一緒にいる時の乃り子さんは、ちょっとふてぶてしさもあって、厳しいこともずけずけ発言。

でも、乃り子さんはその分、有司男さんへの愛を思いっきり芸術作品で表現しはります。乃り子さんが7年前から始めた絵物語『キューティー&ブリー』は、まさに乃り子さんと有司男さんのこと。

予告編でも、乃り子さんが “Cutie hates Bullie?” と有司男さんに聞かれて、”No, Cutie loves Bullie so much.” と本か何かを見ながら答えはるんですが、そのシーンが私はもう好き過ぎてたまりません。有司男さんの嬉しそうな表情と、乃り子さんのちょっと照れくさそうな表情。その2人の表情が、何よりも2人の幸せを伝えています。

先日結婚5周年を迎えたジェガーさんと私にとっては、結婚40周年なんてまだまだまだまだ先の話ですが、私もこんな風に生き生きと歳を重ねていきたい、歳を取るごとに幸せを重ねていきたいと、深く心に思いました。

監督さんはアメリカ人なのですが、彼がこの2人に惹きつけられるのもわかる気がします。なんと、この作品を世に出すまで、4年間も密着したそうです。

最後に、アメリカに住む私がこの作品を観ていてもう一つ興味深いと思ったのは、2人の会話。もう人生の半分ほどをアメリカで過ごしている2人は、日本人同士であっても、会話に自然に英語が混じっています。アメリカで生まれ育った息子さんは、親に対して完全英語。それに対して2人は日本語を使ったり英語を使ったりしています。会話が途中から突然英語になったり、単語だけ英語になったり、すごく面白いです。

アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門、ぜひとも受賞して欲しいです!