『パーフェクトブルー』の今敏監督と『ブラックスワン』のダーレン・アノロフスキー監督の意外な接点

以前、映画『パプリカPaprika)』(2006)を観て・・・

Perfect Blue

私が今敏監督の作品を観たいと思ったきっかけになった最初の記事にも、ダーレン・アノロフスキー(Darren Aronofsky)監督の『ブラックスワン(Black Swan)』(2010)と今敏監督の初監督作『パーフェクトブルー(Perfect Blue)』(1998)の類似点を集めた映像が載っていましたが、今敏監督の作品は多くの有名監督に、意識的にせよ無意識的にせよ影響を与えているのかもしれません。

というわけで、次は『パーフェクトブルー』を観てみたいと思います。

via クリストファー・ノーラン監督にも影響を与えた今敏監督のアニメーション映画『パプリカ』| ツカウエイゴ

と書いたのですが、あれからしばらくして、やっと『パーフェクトブルー』を観ることができました!
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『パーフェクトブルー』は今敏監督のデビュー作。アイドルグループを脱退して女優への転身を計る未麻が、想像を絶する過激な仕事に精神をやられ、そのうちアイドル時代の自分の幻影を見るようになっていく・・・という物語です。

過激なシーンがけっこうあるので、私にとってはかなりヘビーなアニメーション作品でしたが、確かにこの作品を観た後、私はダーレン・アノロフスキー監督の『ブラックスワン』を思い起こしました。

すると、今敏監督が2001年にダーレン・アノロフスキー監督と対談していたことが判明!今敏監督のブログにその様子が書かれていました。

1月18日、「π」のダーレン・アロノフスキー監督と対談してきた。
 新作「レクイエム・フォー・ドリーム」の宣伝のため来日しているそうで、私が対談するのもその一環。私の方もやっと完成する「千年女優」の良い宣伝機会というつもりで引き受けたわけだ。
 「Esquire」という、雑誌での対談である。

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そこに『パーフェクトブルー』のことも書かれていました。

以前掲示板でも触れたが、彼は「パーフェクトブルー」の実写化権を買ったと聞いていた。ゆえに私はこの日次の言葉を彼にぶつけるためにこの対談を引き受けたといっても過言ではなかった。
 「たとえアニメーションであれ、すでに映像化した作品をさらに映像化しようなど、一体どういう料簡だ!?」
 ウソに決まっている。どのくらい本気なのかちょっと聞いてみたかっただけだ。
 が。結果としては契約に至らなかったそうな。

アロノフスキー監督は随分前向きに実現しようとしたようで、具体的な値段の交渉もしていたようだが、「アロノフスキー以外が監督することはない」という条件を盛り込めなかったことなどが原因で契約できなかったらしい。

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その後、以下のように語っています。

アロノフスキー監督は今でも、というか今だからこそ「パーフェクト〜」を実写でやってみたいと思っているそうな。
 聞くところによると最近アメリカではいわゆるアイドル的な存在で売れているグループだかがあるらしい。“なんとかーズ”だったと思うが名前は失念した。
 ともかくそういう背景も考えると「今“パーフェクト〜”の実写を作れば絶対受ける」と力説する。アイドル的存在に対して日本ほど免疫のないアメリカでは、まだ彼女たちが「処女かどうか?」が大問題になっているのだとか。
 私「日本ではそんな問題は随分前に終わってしまった(笑)現在はもっと歪な形でファンとアイドルの関係が深化している。変態みたいなオタクは沢山いるらしい」
 ダ「オタク!!」
 「オタク」という言葉にえらく反応するダーレン。
 ダ「オタクという言葉が大好きだ。英語でそれに当たるものがない」
 確かに「オタク」という単語は「ゲイシャ」「フジヤマ」「スキヤキ」「カラオケ」「ポケモン」に並んで世界で通用する言葉かもしれない。
 彼の前作「π」というのが正に「オタク」を扱った映画と言える。

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この後2人は、作品を共同で製作する話で盛り上がったみたいです。

ダ「現在の仕事は?」
 私「昨日、“千年女優”という新作の0号試写だった」
 ダ「どんな内容?」
 私「元女優の婆さんが一代記を語るのだが、そこに彼女がかつて出演した映画の断片がまじってくる。それは遙か中世から近世、近代、現代そして未来までもある男を追いかけて行く女の物語だ」
 ダ「面白そうだ。女優の話ということで“サンセット大通り”なんかは意識したか?」
 私「いや、意識があったとすれば“スローターハウス5”かな」
 ダ「“スローターハウス5”!大好きな映画だ」
 そりゃそうだろう。あれが分からないやつは目が節穴だ。
 私「ああいう別々な時空間が同時に認識されたり、連続している時間、あるいは他者と自分といった明確な区別が存在しているはずの関係が混沌としてくるような話が好きだ」
 ダ「……それは私が次に作ろうとしている映画のテーマに非常に近い」
 多分アロノフスキー監督と私の指向が似ているのかもしれないが、こうしたことをテーマとするのは先進国においては同時多発的な傾向に思われる。
 ダ「新作の予算はどのくらい?」
 私「1億4千万……くらいかな」
 ダ「!!アメリカに来てくれたら僕はその10倍以上は軽く集められる。是非やろう」
 「軽く」と来たもんだ。「やろう」だとさ。
 前作の「π」が制作費6万ドル、約600万円という自主映画に毛の生えたような予算、2作目でその百倍どころかそれ以上の制作費という出世の早さを考えると、確かに「軽く」というのも頷けよう。やるな、ダーレン。
 前作の「パーフェクト〜」が一億円、2作目で何とその1.3倍という素晴らしい出世の歩みを考えると我ながら情けなさも感じるが、やはりアメリカと日本の土壌の違いを思わざるを得ない。
 私「予算は欲しいな」
 ダ「ただし、英語の作品だ」
 私「……」
 そりゃそうだろうな。しかしこの対談だって通訳越しに交わしているのだ。黒澤の「デルスウザーラ」の例があるとはいえ、言葉がろくに分からないで映画を作れるとは思えない。
 私「……セリフ無しにしようかな(笑)」
 ダ「サイレントか。音楽だけのアニメーション、それでもいいからやろう」
 まったく、アメリカ人は(笑)
 しかし必ずしも調子のいい冗談とは言い切れないようだ。
 オフレコでちょっと真面目な仕事の話もして、実際、とある仕事をやる気はないか、とも言う。ありがたい話である。もっとちょうだい、オマージュ。

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それから10年。アノロフスキー監督は『ブラックスワン』という作品で、ある意味『「パーフェクト〜」を実写』化させたと言えるかもしれません。

ちなみにダーレン・アノロフスキー自身は、『ブラックスワン』に関して以下のように語っています。

Q: Was the film Perfect Blue an inspiration for this film?(『パーフェクトブルー』の影響は受けていますか?)

A: Not really, there are similarities between the films, but it wasn’t influenced by it. It really came out of Swan Lake the Ballet, we wanted to dramatize the ballet, that’s why it’s kind of up here and down there, because ballet is big and small in lots of ways.

(いや、特に。類似点はありますが、影響を受けたわけではありません。本作はまぎれもなくバレエの『白鳥の湖』から端を発しています。バレエをドラマ化したかったんです。そのため、映画もどことなくアップダウンのあるものに仕上がっています。バレエは強弱があるので。)

via Monday Movie Trivia: Aronofsky bought Perfect Blue rights – FLIXIST

またウォール・ストリート・ジャーナル紙のインタビューでは、以下のようにも語っています。

Where does your interest in ballet stem from in the first place?(そもそもバレエに興味を持ったきっかけは?)

My sister was in ballet, was very serious about it. When I was thinking about making a new film, I thought it was interesting to explore and see if there was a movie there. At the same time, I also was thinking of doing something on Dostoevsky’s “The Double.” I like the doppleganger thing. And then I went to the ballet and saw “Swan Lake,” I had this eureka moment.

(私の姉〔妹〕がけっこう本格的にバレエをしていたんです。新しい映画のことを考えていた時に、バレエを掘り下げてそこに映画性があるか見てみたら面白いのではないかと思っていました。同時に、ドフトエフスキーの『分身』について何かしたいとも思っていました。ドッペルゲンガー的なものが好きなんです。それでバレエを見に行って『白鳥の湖』を見て、ひらめきを得ました。)

via ‘Black Swan’ Director Darren Aronofsky on Going Backstage at Ballets: ‘It’s just a nasty dungeon feel’ – Speakeasy – WSJ

私としては今敏監督の「もっとちょうだい、オマージュ。」に応えた部分も少しはあったのではないかと思ってしまいますが、どうなんでしょう。

いずれにせよ、どちらも素晴らしい作品であることは間違いありません。