よく耳にするけど下手に使わない方が良い「asshole」の意味とは?

日本ではすでに公開されている『天使の分け前The Angels’ Share)』が、先月から私のいるところでも公開されたので、ちょっと前に観てきました!



最初に言ってしまいますが、めちゃ面白かったです。特にアルバート(Albert)さん。彼は主人公じゃないんですが、冒頭のこのシーンで即ファンになりました。開始数分で「あっこの映画、絶対おもろい!」という確信を持たせてくれた人です。

このシーンでは何度も F ワード(例:f**k)が飛び出しますが、いつも丁寧な言葉遣いのはずのホームのスピーカーが “Move it, you fucking asshole.”(1:04)と言っているのに笑ってしまいました。

ポイント

“asshole” は「バカ野郎」という意味です。

asshole | Your Dictionary

The definition of asshole is a slang term for the anus and is used to describe a person who is stupid or despicable.

(”ass” は「ケツ」、”hole” は「穴」なので、直訳すると「ケツの穴」ということになります。映画などを観ていてもよく登場しますし、普段の生活でも耳にしますが、”ass” が付く言葉は基本的に下品なので私は使っていません。ジェガーさんは、めっちゃ怒ってる時などに “He’s an asshole.” と言いそうになって、でも私の前では私に配慮して “He’s an A-hole.” という婉曲表現を使ってはります。)

つまり「動け、このクソバカ野郎!」とスピーカーは言っていたんですね。”asshole” だけでもキツイ言い方なのに、そこに “fucking” がついていますから、相当スピーカーも怒ってはります。

補足

というわけでこの映画、アルバートさんを始めとする軽罪を負った若者たちが、刑務所送りになる代わりに社会奉仕活動(community service)をするよう裁判所で言い渡されるところから始まります。

そのうちの一人が主人公のロビー(Robbie)。ケンカ沙汰の絶えない日々を送っていてトラブルを起こしてしまい、社会奉仕活動に加わることになります。ロビーは恋人レオニー(Leonie)と産まれてくる子どものためにも、今の生活を変えたいと思っているのですが、悪党集団に目をつけられているためなかなかうまくいきません。

そこに登場するのが、社会奉仕活動の現場監督者であり、ウイスキーの愛好家でもあるハリー(Harry)。彼との出会いが、ロビーのその後の人生に大きな転機をもたらします。

私は普段あまりお酒を飲みませんが、この映画を観た後、めっちゃウイスキーが飲みたくなりました。映画に登場するのはスコットランドの名産スコッチ・ウイスキー(Scotch whisky)。

後半でオークションにかけられる「モルト・ミル(Malt Mill)」というスコッチ・ウイスキーは、実際にある超高級ウイスキーだそうです。

モルト・ミル蒸溜所は1908年、アイラ島のラガヴーリン蒸溜所の敷地内に、サー・ピーター・マッキーが伝統的アイラモルトの製造を志して創業。小規模で生産量は限られていた。1962年にラガヴーリンに併合されて以来半世紀、コレクターの垂涎の的となり、贋物も出没するほど。樽入ともなれば法外な金額で取引されるだろう、超高級ウイスキー。

via 映画『天使の分け前』公式サイト

1790年に創業したスコットランド最古の蒸溜所の一つ『バルブレア蒸溜所(Balblair Distillery)』や、ロビーたちがウイスキーの製造ツアーに参加する『ディーンストン蒸溜所(Deanston Distillery)』など、蒸溜所もいくつか登場するので蒸溜所巡りもしたくなってきます。
Balblair

(バルブレア by Bruno Cordioli [CC-BY-2.0], via Flickr

蒸溜所といえば、私も前回帰国した時に京都の山崎蒸留所のウイスキー・ツアーに参加したので、映画を観ながらその時のことを思いだしていました。タイトルの「天使の分け前」という言葉も、その時に初めて耳にしたのを覚えています。

“天使の分け前”とは?
ウイスキーなどが樽の中で熟成されている間に、年2%ほど蒸発して失われる分のこと。
10年もの、20年ものと年数を重ねるごとにウイスキーは味わいを増し、それとともに天使の分け前も増していく。

via 映画『天使の分け前』公式サイト

でも、この映画の奥深いところは、ウイスキーだけではありません。ケン・ローチ(Ken Loach)監督は、インタビューで以下のように語っています。

「イギリスにおける失業中の若年層が初めて100万人を超えた。我々は、今を生きる若い世代の多くが空っぽの未来に直面している問題について物語を作りたいと思ったんだ。彼らは自分たちが定職に就けないと思っている。それが人々にどんな影響を与えるのだろう? そんな彼らが、自分自身をどう見ているんだろうかと思ったからなんだ」

via 『天使の分け前』ケン・ローチ監督、“100万人の失業者”と言われる若者たち | 映画・エンタメガイド おすすめ映画

この記事によると、ロビーを演じたポール・ブラニガン(Paul Brannigan)も、脚本家のポール・ラヴァティ(Paul Laverty)に出会って映画デビューを勧められる前は失業中だったそうです。

ハフィントン・ポスト(@HuffingtonPost‎)紙のインタビュー記事『Regina Weinreich: Breakfast With Screenwriter Paul Laverty: On Ken Loach’s The Angels’ Share and Margaret Thatcher』(2013年4月)に、ポール・ラヴァティ自身がポール・ブラニガンに出会った時のことを語っていました。
Paul Laverty

(By Julius1990 (Own work) [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons

Q. But Robbie in The Angels’ Share has been put in detention for a violent act. His is not an idealistic world, but a socioeconomic ghetto. What he wants most in the world is to have a job. Why did you want to write or make a film about that?

A.The real actor was in prison. Here people have a gun problem. In Glasgow they have a knife problem. On Friday nights, gangs clash. When I was doing my research, I met Paul Brannigan. He was such a nice kid who had committed an act of violence. He had a look about him. You could see he was smart. And he was a leader. He never acted in his life. We wanted someone with his fragility. In many ways his life is much tougher than the character’s. These are kids who are not going to find jobs anywhere. Eventually I wrote the script and wanted to find this boy. We made several meetings and he never showed up. I was calling him from where I lived in Madrid. I finally got him and said, for Chrissake if you don’t show up I’m going to… He carries the film beautifully.

(Q.『天使の分け前』のロビーは、暴力沙汰で拘留されています。彼は理想的な世界ではなく、社会経済のゲットーにいます。彼がもっとも欲していたものは仕事でした。どうしてそれについて映画を書こう、または作ろうと思ったのですか?

A. 俳優自身は刑務所にいました。ここ(アメリカ)では人々は銃の問題を抱えていますが、グラスゴーではナイフが問題になっています。金曜日になると、ギャングがけんかをするのです。調査をしている時に、私はポール・ブラニガンに出会いました。暴力行為に関わっていましたが好青年でした。彼には何か惹きつけるものがありました。賢さが伺えました。それに彼はリーダーでした。彼は一度も演技をしたことがありませんでしたが、私たちはもろさを感じさせるような人を欲していました。彼の人生は、彼の演じた役柄よりもいろんな意味でタフです。こういう子たちは、どこにいても仕事が見つけられません。私は脚本を描き、この青年を見つけたいと思いました。何度かミーティングを設定しましたが、彼は一度も現れませんでした。私は住んでいたマドリッドから彼に電話をかけ、最終的につながって「現れないんだったらこっちから行くぞ」と。映画での彼は素晴らしいです。)

via Regina Weinreich: Breakfast With Screenwriter Paul Laverty: On Ken Loach’s The Angels’ Share and Margaret Thatcher

ポール・ブラニガンは、本作で BAFTA スコットランド賞(British Academy Scotland Awards)主演男優賞を受賞。現在は俳優の道を歩みつつあります。ポール・ブラニガンにとっても、ポール・ラヴァティとの出会いが人生の大きな転機になったと言えます。

ちなみに、私がファンになったアルバート役のガリー・メイトランド(Gary Maitland)さんについては、ケン・ローチ監督が公式インタビューで以下のように語っていました。

最後に、ガリーで面白い話があるんだ。彼は日頃は清掃の仕事をしているんだ。その日も、グラスゴーの大通りで清掃の仕事に精を出していたら、ガリーの前に“カンヌ映画祭の受賞作『天使の分け前』”と大きな広告が車体に描かれたバスが停まった。その日が、『天使の分け前』のグラスゴーでのオープニング・デイだったんだ。ガリーはその広告を見て通りをゆく人たちに“これは俺だぞ!”と叫んだんだ。みんな、目を丸くして驚いていたらしいよ。えっ、ここで清掃をしている人が、カンヌの映画の俳優なの?ってね。とても楽しいエピソードだよね。

(映画『天使の分け前』公式インタビューより)

via 仕事こそが希望、仕事を持つことで人は自分に誇りを持つことが出来るんだ|失業中の若者の再生をユーモアたっぷりに描く『天使の分け前』ケン・ローチ監督インタビュー – 骰子の眼 – webDICE

ガリー・メイトランドさんは、プライベートでもアルバートみたいです。