スティーブ・ジョブズのメールから読み取る交渉術!に関する記事で目にした「hard-nosed」の意味とは?

アップルが中心となって電子書籍の価格操作を行おうとしたとする問題に関する訴訟裁判が、来月ニューヨークで行われますが、そのメールのやりとりがこの度公開されました。

その資料をもとに、アトランティック誌(The Atlantic)が故スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏の交渉力の高さを分析。
Steve Jobs with the Apple iPad

(By matt buchanan (originally posted to Flickr as Apple iPad Event) [CC-BY-2.0], via Wikimedia Commons

興味深くその記事を読んでいると、見出し以外に冒頭にも “hard-nosed” という表現が出てきました。

Jobs was a famously hard-nosed negotiator who won these kinds of battles all the time.

via The Steve Jobs Emails That Show How to Win a Hard-Nosed Negotiation – Zachary M. Seward | The Atlantic

ポイント

“hard-nosed” は「強情な」という意味です。日本語にも「鼻っ柱が強い」という表現がありますね!

hard-nosed | Macmillan Dictionary

hard-nosed: determined to succeed and not influenced by emotions

(成功に対する決意が固く、感情に左右されないということですね〜)

つまり、「ジョブズは鼻っ柱の強い交渉家として有名で、このようなバトルには常に勝ってきた」と書かれていたのでした。

補足

というわけで、ジョブズ氏のおそるべしメール交渉術について見てみたいと思います。

時は2010年1月22日(金)。アップルは iPad の発表日を5日後に控えていました。発表の目玉としてアップルはさまざまなメディアのコンテンツを用意していましたが、大手出版社の一つハーパーコリンズ(HarperCollins)は、iTunes ストアで電子書籍を販売する契約をまだ結んでいませんでした。

そこで iTunes 兼 App Store の責任者であるエディ・キュー(@cue)氏が、ハーパーコリンズ社と親会社ニューズ・コーポレーションのエグゼグティブを訪問。アップル社は電子書籍の価格をアマゾン社の当時の一般的な価格より3ドル高い12.99ドルに設定し、さらに各売上の30%をコミッションとして受け取るという取引を提示していましたが、ハーパーコリンズ社は12.99ドルという価格設定に懸念を抱き、独自で価格付けを行うことを希望。また、30%のコミッションにも反対でした。

ミーティング後、このことについて述べたメールがエディ・キューさんに送られ、さらにそのメールはニューズ・コーポレーションのジェームズ・マードック(James Murdoch)CEO からスティーブ・ジョブズさんにも、その日のうちにメモ付きで転送されます。すると同日、スティーブ・ジョブズさんから返信が。

現在の電子書籍市場の問題点やアップルの強みなど6項目を挙げ、アップルの提案がいかに “相手にとって” 妥当で意義のあることか、端的に説明しています。

それでマードックさんが少し譲歩の動きを見せかけると、さらに畳みかけるようにして以下のメールを送信。

James,

Our proposal does set the upper limit for ebook retail pricing based on the hardcover price of each book. The reason we are doing this is that, with our experience selling a lot of content online, we simply don’t think the ebook market can be successful with pricing higher than $12.99 or $14.99. Heck, Amazon is selling these books at $9.99, and who knows, maybe they are right and we will fail even at $12.99. But we’re willing to try at the prices we’ve proposed. We are not willing to try at higher prices because we are pretty sure we’ll all fail.

(私たちの提案は、電子書籍の小売り価格に対し、各本のハードカバーの値段に準じて上限を設定しています。その理由は、多くのコンテンツをオンラインで売る経験から、単純に12.99ドルや14.99ドル以上の値段で電子書籍マーケットが成功するとは思わないからです。アマゾンは9.99ドルで売っていますがどうでしょう。彼らが正しいかもしれませんし、12.99ドルでも私たちが失敗するかもしれない。でも、私たちは提案した価格でやってみたいと思っています。それ以上の値段で売るとほぼ確実に失敗すると思うので、それは行いません。)

As I see it, HC has the following choices:

(私が思うに、御社には以下の選択肢が考えれます:)

1. Throw in with Apple and see if we can all make a go of this to create a real mainstream ebooks market at $12.99 and $14.99.

(アップルと手を組み、12.99ドル、14.99ドルで真の電子書籍市場のメインストリームを創出する)

2. Keep going with Amazon at $9.99. You will make a bit more money in the short term, but in the medium term Amazon will tell you they will be paying you 70% of $9.99. They have shareholders too.

(アマゾンと組み、9.99ドルでやっていく。短期的にはより多くの利益が生めるかもしれないが、中期的にはアマゾンは9.99ドルの70%を払うと言ってくるだろう。彼らには株主もいる。)

3. Hold back your books from Amazon. Without a way for customers to buy your ebooks, they will steal them. This will be the start of piracy and once started there will be no stopping it. Trust me, I’ve seen this happen with my own eyes.

(アマゾンから手を引く。顧客は御社の電子書籍を買うすべがないので、盗みを働くだろう。それが違法ダウンロードの始まりとなり、止めることはできなくなる。信じてください。私は自分の目で実際にその様子を見てきました。)

Maybe I’m missing something, but I don’t see any other alternatives. Do you?

(もしかしたら何か見逃しているかもしれませんが、その他の代替案は思いつきません。あなたはどうですか?)

Regards,
Steve

1. から 3. まで提案しておきながら、1. 以外にはマイナス点を盛り込み、1. を選ばざるを得ないようにうまく誘導しているところがすごいです。

これでマードックさん、完全にやられはりました。アップルとの交渉成立です。

交渉が成立したのは、iPad が発表されるわずか1日前でした。