オバマ大統領の訪日について書かれた記事で目にした「setback」の意味とは?

昨日、『オバマ大統領が訪日!のニュースで耳にした「state visit」の意味とは?』という記事を書きましたが、オバマ大統領の目的はもちろん、天皇皇后両陛下との宮中晩餐会に出席したり、日本科学未来館(Miraikan)を訪問して「アシモ(ASIMO)」を見学したり、明治神宮で流鏑馬(やぶさめ)を見物したり、安倍首相と『すきやばし次郎』でお鮨を堪能したこと(だけ)ではありません。

Shinzo Abe & Barack Obama

真の狙いはずばり、日米同盟関係の強化。

出発前の21日、ワシントンで記者会見したホワイトハウスのローズ大統領副補佐官は今回の訪問でアメリカが重視するのは同盟関係の強化だと明言しました。
まず、安全保障分野で同盟国に対するアメリカの関与を明確にすること。
そして、先月、オランダで首脳会談の開催にこぎ着けた日米韓3か国の協力をさらに推進することを確認したいとしています。

次に貿易通商の分野。
世界で最も力強い経済成長を続けるアジア太平洋地域で、アメリカの貿易のチャンスを増やすことです。
念頭にあるのはTPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉を前進させることです。
大統領は教育や文化の分野の人的交流にも強い関心を持っています。
大学生などの留学を通して相互理解を一段と深め、科学技術分野での協力をさらに進めたいとしています。
安全保障、貿易通商、科学技術といった分野の協力をこれまで以上に進めることで、アメリカとしては日米同盟が強固で盤石であることを強調し、アジア太平洋地域重視の政策を内外に示したい考えです。

via NHK NEWS WEB オバマ大統領 訪日のねらいは

オバマ大統領の今回の訪日について理解するため、日本のメディア記事とアメリカのメディア記事を両方読み進めていたところ、朝日新聞にこんなくだりがあるのを発見しました。

ニューヨーク・タイムズ電子版は、オバマ氏が今回の訪日の際に、TPPの大筋合意を望んでいたが果たせなかったと報道。米国が仲介する中東和平交渉が暗礁に乗り上げていることにも触れて、「オバマは日本と中東で挫折に苦しむ」などとした。

via オバマ氏訪日、欧米では辛口報道 「アジア政策危機 | 朝日新聞デジタル

というわけで、該当するニューヨーク・タイムズ紙の記事『Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast | NYTimes.com』(4.24.2014)を読んだところ、”setback” という単語を何度か目にしました。

President Obama encountered setbacks to two of his most cherished foreign-policy projects on Thursday, as he failed to achieve a trade deal that undergirds his strategic pivot to Asia and the Middle East peace process suffered a potentially irreparable breakdown.

via Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast – NYTimes.com

The setbacks, though worlds apart in geography and history, speak to the common challenge Mr. Obama has had in translating his ideas and ambitions into enduring policies.

via Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast – NYTimes.com

ポイント

“setback” は「妨げ、挫折」という意味です。

setback | Macmillan Dictionary

setback: a problem that delays or that stops progress or makes a situation worse

(遅らせたり、進捗を止まらせたり、状況を悪化させたりする問題、のことなんですね〜)

つまり、一文目は「オバマ大統領は木曜日、望みをかけてきた外交政策の2つにおいて挫折に直面した。アジア戦略基軸を補強するための貿易協定締結は失敗、中東和平交渉も破綻の危機に瀕した」、そして2文目は「地理的にも歴史的にも状況は異なるが、これらの挫折は、オバマ大統領がこれまで考えや熱意を持続的政策に落とし込むうえで直面してきた課題をまた浮き彫りにしている」と書かれていたのでした。

補足

この記事、アジアだけでなくイスラエル事情にも触れられているため、読解が難しかったですが、がんばって読んでみました。

Mr. Obama had hoped to use his visit here to announce an agreement under which Japan would open its markets in rice, beef, poultry and pork, a critical step toward the Trans-Pacific Partnership, the proposed regional trade pact. But Prime Minister Shinzo Abe was not able to overcome entrenched resistance from Japan’s farmers in time for the president’s visit.

(オバマ氏は今回の訪問で、地域貿易協定 TPP への重要なステップとなる、日本の米や肉類の市場開放に対する合意を発表したいと思っていた。しかし安倍晋三首相は、大統領訪問までに日本の農家らの強固な抵抗に打ち勝つことができなかった。)

via Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast – NYTimes.com

その頃、イスラエル・パレスチナ間の和平交渉も同様に行き詰まりました。パレスチナ解放機構(Palestine Liberation Organization)とパレスチナの軍事組織ハマス(Hamas)が和解することになったからです。

In one sense, the latest news from the Middle East offers a rationale for Mr. Obama to keep his gaze fixed on the fast-growing economies of Asia. While the troubles with the peace negotiations have surprised almost no one, the trade talks with Japan still hold some hope of yielding a landmark deal, since it is in the interests of both Mr. Abe and Mr. Obama — a bet on the future rather than an effort to clear the enmities of the past.

(ある意味この中東のニュースは、オバマ大統領が急成長中のアジア経済を注視する理由付けとなっている。もはや平和交渉に問題があっても驚く人はいないが、日本との貿易交渉は歴史的取り決めにつながる望みをまだ持っているからだ。後者は過去の憎しみを取り去る努力をするのではなく将来に賭けることであり、阿部氏・オバマ氏両方が興味を持っている。)

via Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast – NYTimes.com

しかし、安倍首相が日本の農家らの抵抗に打ち勝つことがなかったのと同様、オバマ大統領も米議会からサポートを受けられていません。

“Prime Minister Abe has got to deal with his politics; I’ve got to deal with mine,” he said on Thursday. “It means that we sometimes have to push our constituencies beyond their current comfort levels.”

(「阿部首相も私も、それぞれの政治駆け引きに対処する必要がある」と木曜に彼は語った。「つまり、お互いに支持者らの満足する領域を越えさせる努力をする必要もあるということだ。」)

via Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast – NYTimes.com

オバマ大統領はこの他、中国と日本が尖閣諸島問題で火花を散らした際には、安全保障条約(security treaty)の取り決めにより日本を援護する義務があることを表明。ただし、問題の島が日本と中国のどちらに属すかに対しては言及を控えています。

The net result, seen in a news conference in which the leaders referred to each other a bit stiffly as Barack and Shinzo, was an alliance clearly on firmer footing than it was earlier, but still vulnerable to political frailties on each side.

(お互いにやや堅苦しく「バラク」「晋三」と呼び合っていた記者会見の最終結果では、同盟の基盤が以前よりも安定したものになっていることは明らかだった。しかし、それでもまだ、それぞれの政治的弱点に対してはもろいところがある。)

via Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast – NYTimes.com

中東情勢も同様に不安定で、パレスチナ解放機構と軍事組織ハマス(Hamas)が和解することは一見良いことに思えますが、イスラエルはハマスのことを「テロリスト組織」と呼んでいて、パレスチナ解放機構と和解することを快く思っていません。

Mr. Abbas “had a choice: peace with Israel or pact with the terrorist Hamas,” Mr. Netanyahu said in an interview with NBC News. “So that’s the blow for peace, and I hope he changes his mind.”

(「アッバース大統領はイスラエルとの和平を選ぶか、テロリスト組織ハマスと提携するかのどちらかだ」とネタニヤフ首相は NBC ニュースとのインタビューで語った。「(ハマスとの提携は)和平を妨げる。アッバース大統領が心変わりすることを望んでいる。」)

via Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast – NYTimes.com

イスラエルの高官らは、パレスチナとの交渉を中断させることと、パレスチナが5週間以内に暫定統一政府を樹立すると約束したことに対して懲罰的政策を設けることを全会一致で決定。アッバース大統領がハマスとの提携を打ち切らない限り、和平交渉再開はない、としています。

イスラエルとパレスチナの和平交渉期限は今月29日。仲介にあたっているアメリカも焦っています。

Events in Asia tend to move at a slower pace. But with trade a key pillar of Mr. Obama’s strategy in Asia and each side looking for something from the other, the negotiations assumed a Middle East-like intensity.

(〔それに比べると〕アジアでの状況はより遅いペースで進展している。しかし、貿易がオバマ氏のアジア戦略の柱であり、双方が相手に期待していることから、交渉は中東情勢のような緊迫を見せる可能性を秘めている。)

via Obama Suffers Setbacks in Japan and the Mideast – NYTimes.com

このあと文章はまだもう少し続くのですが、記事からはとにかくアジアと中東の行き詰まりに対する深い落胆が読み取れました。

オバマ大統領も阿部首相もそれぞれサンドイッチ状態の中、日米の貿易交渉は一体どうまとまるのでしょうか。

もう少しニュースを追ってみたいと思います。