ランディ・パウシュ教授の『最後の授業』で耳にした「head fake」の意味とは?
私の尊敬する方の一人がこのブログを読んでくださっているのですが、なんと読んでくださっているだけでなく、ネタまで提供してくださいました!
それが、”head fake” という言葉です。私は初めて聞きました。
すると、ランディ・パウシュ(Randy Pausch)カーネギーメロン大学(Carnegie Mellon University)教授の『最後の授業:子供時代に抱いた夢の実現(The Last Lecture:Really Achieving Your Childhood Dreams)』(9.18.2007)に登場する言葉だと教えていただいたので、さっそく動画を鑑賞。
“head fake” が何度も登場しました。
以下、”head fake” が登場した箇所を全て抜き出してみます。
And the other thing about football is we send our kids out to play football or soccer or
swimming or whatever it is, and it’s the first example of what I’m going to call a head fake, or
indirect learning.(11:31)
And these kinds of head fake learning are absolutely important.(11:55)
The head fake – again, we’re back to the head fakes.(52:47)
And the head fake here is that they’re learning to program but they just think they’re making movies and video games.(52:562)
I think the best head fake of all time comes from Caitlin Kelleher.(1:00:45)
So all-time best head fake award goes to Caitlin Kelleher’s dissertation.(1:01:25)
But did you figure out the head fake?(1:14:48)
Have you figured out the second head fake?(1:15:05)
講義全文→ http://www.cs.cmu.edu/~pausch/Randy/pauschlastlecturetranscript.pdf
ポイント
“head fake” という言葉は、辞書には載っていません。このランディ・パウシュ教授の映像には日本語字幕付きバージョンもあるのですが、そこでは「頭のフェイント」(3:25)と訳されていました。
でも、「頭のフェイント」だけではいまいちピンと来ません。ランディ・パウシュ教授自身は、「関節学習(indirect learning)」という言葉で置き換えてはりました。
And the other thing about football is we send our kids out to play football or soccer or
swimming or whatever it is, and it’s the first example of what I’m going to call a head fake, or
indirect learning. We actually don’t want our kids to learn football. I mean, yeah, it’s really nice that I have a wonderful three-point stance and that I know how to do a chop block and all this kind of stuff. But we send our kids out to learn much more important things. Teamwork, sportsmanship,
perseverance, etcetera, etcetera. And these kinds of head fake learning are absolutely important.(11:31)(フットボールについてもう1つ言えるのは、フットボールでもサッカーでも水泳でも何でもいいですが、子どもにスポーツをさせること。それこそ私が “head fake” と呼ぶ、いわゆる「間接学習」の1つの例であります。私たちは実際のところ、子どもにフットボールを学んで欲しいわけではありません。そりゃ、スリーポイントの構えがよかったり、窮地に追い込むやりかたを知っていたりするのは良いですよ。でも、子どもにスポーツをさせるのは、もっと大事なことを学んで欲しいからです。チームワークや、スポーツマンシップ、忍耐などのことです。そういうヘッドフェイク学習というのは、極めて重要なことです。)
フェイントそのものは「右に行くと見せかけて左に行く」といったテクニックのことを指しますが、それを概念的に行うんですね!
上記の例では、子どもたちに「スポーツを習わせると見せかけて、チームワークやスポーツマンシップなどを身につけさせる」という真の目的があるわけです。まさにフェイントです。
つまり、ランディ・パウシュ教授は、フェイントというテクニックを教育に応用したんですね〜!
補足
というわけでこのランディ・パウシュ教授の『最後の授業(Last Lecture)』、1時間以上ありますが、ぜひ最後まで観ていただきたいです。
彼の講義のアジェンダは以下の3つ。
- My childhood dreams(子どもの頃の夢)
- Enabling the dreams of others(他人の夢を叶えること)
- Lessons learned: how you can achieve your dreams or enable the dreams of others(教訓:どうすれば夢を叶えられるか、あるいはどうすれば他人の夢を叶えられるか)
まずはパウシュ教授自身が子どもの頃に夢見ていたことと、それをどのようにして叶えていったかが語られます。
そして次は、他人の夢を叶えるために、パウシュ教授が教育に関わるようになったこと。具体的には、ディズニーランドのアトラクション設計などに関わった “イマジニア(Imagineer)” というキャリア経験を生かし、カーネギーメロン大学で “Building Virtual Worlds” というコースを教えたことについて語ります。そして、アーティストと技術者の才能を融合させる “Entertainment Technology Center (ETC)” を始めたこと。
さらに、より多くの人の夢を叶える手助けをするために、パウシュ教授は “Alice” というコンピュータ・プログラミングを学ぶためのソフトウェアも開発します。それは、”Alice” を使って映画のシナリオを楽しく作っているつもりで、実はコンピュータプログラミングを学べるというもの。なんと、そこにも “head fake” が取り入れられているんですね!
The best way to teach somebody something is to have them think they’re learning something else.
(誰かに何かを教える最も優れた方法とは、何か別のことを学んでいると思わせることなんです。)
パウシュ教授は、夢を叶えるための周囲の存在の大切さについても語ります。家族、メンター、そしてパウシュ教授の場合は生徒など。人からサポートを受けるためには、自分も人を助けること、正直に真面目であること、失敗した時は謝ること、そして人の気持ちを思いやることも大事です。
するとそこでケーキを登場させるパウシュ教授。なんと、前日は奥さんの誕生日だったそう。奥さんのサポートに感謝を示す方法として、もはやこれ以上の方法はありません。パウシュ教授、男前すぎます。
そして驚くことに、”head fake” もまた、最後の最後にもう一度登場します。なんとこの講義にも “head fake” があったというのです。
But did you figure out the head fake? [dramatic pause] It’s not about how to achieve your dreams. It’s about how to lead your life.
(ところで、”head fake” はわかりましたか?(沈黙)この講義は、夢の叶え方について述べているわけではないのです。人生をどう送るかについて述べているのです。)
やられた!・・・と思いきや、パウシュさんはまだ続けます。
Have you figured out the second head fake? The talk’s not for you, it’s for my kids.
(もう1つの “head fake” もわかりましたか?実は、この講義は皆さんに向けたものではありません。私の子どもに向けています。)
完全にやられました。パウシュ教授に KO 取られました。
この講義は、講義という形を取った、素晴らしいパウシュ教授の伝記だと思います。パーソナルな話をふんだんに盛り込みながら、普遍性に満ちていて、万人の心を打ちます。ユーモアと名言にあふれた語り口に、パウシュ教授の人柄がにじみ出まくっています。
実はこの講義の最初では、パウシュ教授がすい臓ガンであることが語られているのですが、講義をするパウシュ教授からは悲壮感を1ミリも感じません。でも、パウシュ教授は、この講義に全てをかけたはずです。1時間ちょっとの時間にパウシュ教授の人生が全て詰まっています。それも、無理やり押し込んでいるのではなく、お弁当のように綺麗に見栄えよく収まっています。感動です。
動画を観終わった後、しばし余韻にひたりながら、私は考えました。
待てよ、もしかしたら、これも “head fake” なのかもしれない・・・
私にこの言葉を教えてくださった人は、私にブログのネタを提供すると見せかけて、本当はこの講義のことを教えたかったのかもしれない・・・
私は今 “教育” にすごく興味があるので、この “head fake” という概念はしっかり覚えておこうと思います。