ピカソがひたすら絵を描き続けるドキュメンタリー映画『ミステリアス・ピカソ/天才の秘密』
私が名匠パブロ・ピカソ(Pablo Picasso)を好きになったのは比較的最近のこと。数年前にこちらの美術館で見たピカソ展『Picasso: Masterpieces from the Musee National Picasso, Paris』がきっかけでした。パリのピカソ美術館(Picasso Museum)が所蔵するピカソの作品150点以上を展示したものです。
その作品展を見に行くまでは、私にとってピカソは「理解に及ばない才能の持ち主」というイメージでした。ところが、そこに飾ってあった一枚の写真に目が留まり、一気にピカソに対して親しみを抱いたのです。それは、ピカソがアトリエで何十枚もの同じ絵に囲まれて立っている、という写真でした。確か女の人が帽子をかぶっている絵で、完成品は作品展にも含まれている絵だったのですが、その絵を描くのにピカソが何十枚もの絵を描いていたという事実を実際に目の当たりにして、天才ピカソの人間らしい一面をちょっぴり垣間見たように感じたわけです。
で、ある時ジェガーさんとひょんなことからピカソの話になって、その話をしたところ、「確かピカソが絵を描いている様子を映したドキュメンタリー映画があったような・・・」とジェガーさん。
えっそれ、めっちゃ観たいんですけど・・・ということで見つけて借りたのがこの映画『ミステリアス・ピカソ/天才の秘密(Mystery of Picasso)』(1956)。その年のカンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で審査員特別賞(Special Jury Prize)を受賞した作品です。
内容は至ってシンプル。ジェガーさんが言った通り、ひたすらピカソが絵を描き続けます。
透明の特殊なキャンパスにピカソが描いていく様子を反対側から映し出しているので、画面にはピカソの手などはあまり映りません。描き出しから完成まで基本的に編集は加わっておらず、まるでピカソの脳内のダダ漏れを見ているようです。シンプルな構成のものからピカソらしい複雑な作品まで、さまざまな絵の制作過程がさまざまな音楽に合わせてほぼ休憩なく続いていくため、後半はかなりおなかいっぱいになってきました。
でも、ピカソさんは「私は一晩中描き続けられますよ」と言って、全く描くのをやめません。制作側は一部始終を収録しているので、フィルムがなくなってくるとピカソさんが時間との戦いになる場面もあるんですが、「あと45秒ですか?いけると思います」という感じで、ひたすらぐいぐい筆を進めはります。
さらに後半、油絵に移ってからはますますピカソパワー炸裂。何度も何度も重ね塗りして、時には大胆に構図を変えることも厭いません。
一見感情の赴くままに描いているようで、ぎりぎりまで妥協しないピカソさんの、絵に対する惜しみない愛情を見せつけられた気分でした。
ちなみに、この予告編の説明によると、映画の中で描かれた作品は全て映画の完成時に破棄されたため、この映画以外で見ることはできないそうです。
ピカソさん、ますます好きになりました。