映画『フルートベール駅で』の特集映像で耳にした「redemption」の意味とは?
昨日もちらっと紹介した映画『Fruitvale Station』(日本公開未定 ※追記参照)の特集映像を観ていたところ、主人公オスカーの母親を演じたオクタヴィア・スペンサー(Octavia Spencer)が、”We all make mistakes. That doesn’t mean that every man shouldn’t have a second shot at redemption.”(0:32)と言っていました。
ポイント
“redemption”〔発音〕はこの場合、「救済」という意味で使われています。
- the action of saving or being saved from sin, error, or evil
- [in singular] a thing that saves someone from error or evil
- the action of regaining or gaining possession of something in exchange for payment, or clearing a debt.
(罪や間違い、悪から救うこと、あるいは救われることを意味するんですね。2. のように、買い物などに使われると「償還」という意味にもなります!)
映画『ショーシャンクの空に』(1994)も、原題は『The Shawshank Redemption』でした!
つまりオクタヴィア・スペンサーさんは、「誰もが間違いをおかします。だからといって、誰一人救済の余地を与えられてはいけないということではないのです」と言っていたのでした。
補足
というわけで昨日書いた通り、映画『Fruitvale Station』は2009年元日にカリフォルニア州オークランドの地下鉄 “fruitvale” 駅で実際に起こった事件が基になっているのですが、映画はまずこの事件の様子(実際の映像)から始まり、それから被害者であるオスカーさんの最期の一日を追っていく流れになっています。
オスカー・グラント(Oscar Grant)さんは、当時22歳。この映画で長編デビューを果たしたライアン・クーグラー(Ryan Coogler)監督も、当時22歳でした。クーグラー監督はその頃映画学校の学生で、事件のあったベイ・エリアに住んでいたそうです。
On New Year’s Day I saw the footage, and I was deeply affected by it. Looking at the footage, I realized that Oscar could have been me…we were the same age, his friends looked like my friends, and I was devastated that this could happen in the Bay Area.
(元日に私は映像を見て、深い衝撃を受けました。映像を観ていると、オスカーは自分だったかもしれないと思えて・・・。彼は私と同い年で、彼の友人たちは私の友人らにそっくりでした。この事件がベイ・エリアで起こったということに、私は打ちのめされました。)
この彼の「自分だったかもしれない」という感覚は、映画を通して強烈に伝えられています。クーグラーさんは「オスカーがもしかしたら自分だったかもしれない」と言っていますが、私は自分の立場をオスカーさんのガールフレンドにも重ね、「いつも当たり前にいると思っている存在がある日突然いなくなるということはいつだってあり得る」という感覚も強く持ちました。ジェガーさんが出かける時、最近はちょっぴり面倒くさくて玄関先まで見送っていなかったのに、映画を観た翌日から再び玄関先まで見送ってジェガーさんの安全を祈るようになったほどです。
でもこの映画には、それだけではないもっと深いテーマが込められています。それは、アメリカに根強く残る人種の問題。
オスカーさんの事件では、加害者は白人の警官で、オスカーさんを故意に撃ったと言われています。
カリフォルニア(California)州アラメダ(Alameda)郡のトム・オルロフ(Tom Orloff)検事は14日、オークランドで記者会見し、グラントさんが故意に殺害された被害者だとの証拠が示されたことから、同容疑者を殺人罪で送検したことを明らかにした。
この警官の顛末については映画の一番最後でも触れられているので、ここでは詳しく述べませんが、アメリカでは “黒人” が安易に “悪者” と捉えられてしまう風潮が今も根強く残っている部分があり、この作品はその風潮に対する問題意識を浮き彫りにしている側面があるのです。
昨年6月にも、フロリダ州でトレイボン・マーティン(Trayvon Martin)という17歳の少年がヒスパニック系白人の自警団員に射殺されるという事件があり、大きく話題になりました。私のいる州でも先々月、事件の起こったちょうど1年後に再びデモがあったばかりです。
Trayvon Martin verdict spurs prayer vigil, protest | Local News | The Seattle Times
オスカーさんの事件の後も、ベイ・エリアでは多くの人がデモに参加していたようです。オスカーさんのイラストがあちこちに描かれたこともあり、キャスティングではなるべく本人に似た人物が選ばれました。
There are pictures of him everywhere in the Bay Area and on the internet, and we needed someone with a great smile and eyes that could draw the viewer in, like Oscar’s. And it would help if the actor was around the same age as him.
(ベイエリアやインターネットのいたるところにオスカーの肖像があったので、彼のように観る人をひきつける素敵な笑顔と目の人を求めていました。あと、俳優が彼と同じ年頃であるかどうかも。)
オスカー役を演じたマイケル・B・ジョーダン(Michael B. Jordan)さんは、愛嬌のある笑顔と目が本当に印象的でした。彼を起用し、ドキュメンタリー映画ではなく物語として伝えたことで、この作品はデモやジャーナリズムでは伝えきれない問題意識を、人の心から引き出したのではないかと思います。
I wanted to do something to make a difference, and I thought that if I could bring the story to life through art, and give audiences the chance to spend time with a character like Oscar, it could maybe lower the chances of an incident like this happening again.
(私は何か違うことがしたいと思いました。この話を芸術を通して伝え、観る人にオスカーのような人物と時間を共にしてもらうことで、こういった事件が再び起こるリスクを抑えることができるのではないか、と。)
追記
その後、『フルートベール駅で』という放題で日本でも公開されました!