映画『ダラス・バイヤーズクラブ』のきっかけとなった新聞記事で何度も目にした「smuggle」の意味とは?

先日、観たい観たいと思っていた映画『ダラス・バイヤーズクラブDallas Buyers Club)』(日本では2014年2月22日公開予定)をやっと観ました。

Dallas Buyers Club


これは、1985年にテキサス州ダラスで HIV 陽性により余命30日と宣告されたロン・ウッドルーフ(Ron Woodroof)さんが、『ダラス・バイヤーズクラブ』という会員制クラブを設立して会費を集め、米国で当時未承認だった薬をエイズ患者に配る活動をするという物語です。実話に基づいています。

この脚本を書いたクレイグ・ボーテン(Craig Borten)さんは、1992年に『Dallas Morning News』日曜版に掲載された取材記事を読んでロン・ウッドルーフさんに会いに行き、脚本を書いたそう。それが『‘The Dallas Buyers Club,’ the AIDS film no one wanted to make – Los Angeles Times』に書かれているような紆余曲折を経て20年後に映画として完成したのですが、大元の1992年の新聞記事がネットで読めるようになっていたので、読んでみました:

すると、”smuggle” という単語を何度も目にしました。

The smuggled drugs in his trunk are experimental treatments destined for terminally ill people with the AIDS virus.

Thousands of people argue that in order to stay alive a few more days, a few more weeks, they must rely on the drugs Ron Woodroof smuggles for the Dallas Buyer’s Club.

ポイント

“smuggle” は「密輸する」という意味です。

smuggle | Longman Dictionary

  1. to take something or someone illegally from one country to another
  2. [informal] to take something or someone secretly to a place where they are not allowed to be

(2. は「こっそり持ち込む」という意味です!)

つまり1文目は「トラックで密輸入した薬は、AIDS ウイルスの末期症状患者のための実験的治療に使われる」、そして2文目は「もう数日、もう数週間長く生き延びるために、ダラス・バイヤーズクラブのロン・ウッドルーフが密輸した薬に頼らなければならないと、数多くの人が主張している」と書かれていたのでした。

補足

というわけで、ネタバレにならない程度に詳しく読んでみたいと思います。

Since 1986, when he quit his job in Dallas as a licensed electrical contractor, he’s made this trip across the unpredictable Mexican border 300 times, he says.

(1986年にダラスで認可を受けた電気工事請合業者を辞めて以来、ロンはこの予測不可能なメキシコ国境を300回も渡ったと語る。)

HIV 陽性と診断されたロンさんは、いろいろと調べ尽くした結果、非常時には非常手段が必要だという結論に至ったそうです。

“This is mandatory, that is the problem,” barks Ron, back in the cramped safety of his anonymous Dallas office. “It is not a matter of whether or not you want to take these risks, it’s a matter that you have to take these risks.”

(「これは義務なんです。そのことが問題なんですよ」と、ダラスの匿名の事務所の狭苦しい一室でロンは吠える。「リスクを取るか取らないかということではなくて、リスクを取らないといけないということが問題なんです。」)

ダラス・バイヤーズクラブのようなクラブは全米にいくつも存在し、主要な組織だけで9団体もあったそうです。

Interested customers have been given product price lists which contain hundreds of items, from “milk thistle” to more controversial substances like Compound Q, DDC and alpha interferon. The Dallas club has carried as many as 112 chemicals that are not approved in the United States.

(興味のある顧客は、「オオアザミ」を始め、複合物質Q や DDC、αインターフェロンなどのより賛否両論のある物質まで、数多くのアイテムを記載した商品価格リストを渡される。ダラス・バイヤーズクラブはアメリカで認可されていない122種類もの化学物質を揃えていた。)

商品は、メンバーからプールして集めたお金で購入。アメリカの化学者から闇ルートで入手したり、商品が認可されているイギリスやドイツ、日本、デンマークなどから入手したりと、さまざまな伝手を通じて買い付けていたようです。

さらに、買い付けた薬は実験室で純度試験も行っていたそう。密輸入費用、分析費用、配送料などを考慮して価格を決定し、商品はあくまで自己責任で使用よることと再三にわたって注意していました。

ウッドルーフさんの常連顧客は4,000人にのぼっていたそうです。

“We created the institutions, the buyer’s clubs, all across the country not because we were so smart and knew that we needed them. We created them because nobody else is going to do it for us.”

(「バイヤーズクラブが全米で自主的に立ち上がったのは、何もみんな賢くて、それが必要だとわかっていたからじゃない。誰もそういうことをしてくれないから、みんな自分たちで立ち上げたんだ。」)

ウッドルーフさんは、最もリスクを怖れないバイヤーとしても有名だったそうですが、その理由を以下のように語っています。

“I’ll take a bigger chance than anybody else. If it is out there, if I can get my hands on it, if I can buy, bribe, steal or whatever, I will go for it,” he says. “If you are going to live, you can’t accumulate too much information. I don’t buy anybody’s story. I don’t care what a physician tells me. I get my own numbers.”

(「私は誰よりも大きいチャンスを取る。チャンスがあれば、それが手に入りそうならば、買うなり買収するなり盗むなり何なりできそうであれば、なんだってやる」と彼は言う。「生きるんだったら、情報はそんなにたくさんかき集められない。私は誰の話も信じない。医者が言うことなんて気にしない。自分でやるんだ。」

この記事を書いた記者さんへのインタビュー記事もあるので、合わせて読むととても興味深いです:

あれこれ読むと、「なるほど、あれも実話やったんや〜」という描写がたくさんありました。

それにしても、このロン・ウッドルーフさんを演じたマシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)さんの演技の凄まじいこと。オスカー受賞はやはり、ほぼ間違いないと思われます。

そのマシュー・マコノヒーさんと同じくらい、あるいはそれ以上に凄まじかったのが、この演技で助演男優賞を総なめにしているジャレッド・レト(Jared Leto)さん。

彼は今回映画出演が6年振りだったのですが、ロン・ウッドルーフと同じく HIV 陽性の末期症状患者でトランスジェンダーのレイヨンという、非常に難しい役柄を完璧なまでに演じています。本人の面影が一ミリもありません。

このインタビューの中でマシュー・マコノヒーさんも語っていますが、このレイヨンという登場人物は、ちょっとでも演じ過ぎると「やり過ぎ」になっていたと思うのですが、そういう意味でジャレッド・レトさんの演技は “本物” でした。

マシュー・マコノヒーさんもジャレッド・レトさんも、この作品の役柄を演じるために、極度に体重を落としています。ぞっとするくらい細いです。だからこそ余計に演技に説得力があります。役柄に対する2人の本気度が伝わってきます。外見作りも演技の一つなのだということを改めて実感しました。

アカデミー賞の発表が楽しみです!