第70回ゴールデン・グローブ賞でのジョディ・フォスターのスピーチで耳にした「wolf whistle」の意味とは?
先日ちらっと紹介した、第70回ゴールデン・グローブ(Golden Globes)賞でのジョディ・フォスター(Jodie Foster)のスピーチ。
勢いよく話し始めたジョディが、一段落して「今まで公の場では口にしてこなかったことを言う」と宣言し、”I am single.(私は独身です。)” と会場を盛り上げた後で、”Can I get a wolf whistle or something?”(2:15)と言いはりました。
スピーチ全文はこちら→ Golden Globes 2013: Transcript of Jodie Foster’s speech – latimes.com
ポイント
“wolf whistle” は特に女性に対して使われる口笛です。
wolf whistle: a distinctive 2-toned whistle sounded by a boy or man to express sexual admiration for a girl or woman in his vicinity
(魅力的な女性に対して、あの特徴的な2段階のトーンで示す口笛のことです!)
下の『おかしな赤頭巾(Red Hot Riding Hood)』(1943)でも、いきなり冒頭でおおかみが “wolf whistle” を披露してはります。
試しにジェガーさんにもできるか聞いてみたら、ちゃんとできました。口笛の吹けない私からすると、きちんと2段階のトーンになっているのは感動ものです。
ジョディが「”wolf whistle” かなんかもらえません?」と言った後も、歓声とともに “wolf whistle” が聞こえていました。
補足
というわけで、受賞スピーチにて、初めて公に同性愛者であることを告白したジョディ・フォスター。The Guardian の『The genius of Jodie Foster’s speech(天才的なジョディ・フォスターのスピーチ)』(2013年1月)という記事でもスピーチの内容が詳しく分析されていますが、私の解釈はこんな感じです。
- 一気に注意を引き寄せる
- 注目を弄ぶ
- 本題に入る前にちょっとためらいを見せる
- さらっとカミングアウト
- 聴衆を自分の立場に置き換えさせる
- いよいよ、本当に伝えたいことを伝える
- 今後について触れて締めくくる
冒頭から “I’m 50!” といきなりめっちゃテンションの高いジョディに「なんやなんや!?」となる人続出。ツイッターでも「ジョディ・フォスター大丈夫?」という感じのコメントが多数見られました。
出だしでいったん全員の注目を集めた後、”Robert … Susan … Phil … Aida … Scott” と名指しでコメントし、個々の関心をさらに引きつけていくジョディ。”Executives, producers, the directors, my fellow actors out there…” と全員を巻き込んでいって、”we’ve giggled through love scenes, we’ve punched and cried and spit and vomited and blown snot all over one another … ” と思い出話に花を咲かせます。この段階ではまだ聴衆は事態が飲み込めておらず、皆さん笑顔がわりとひきつってはります。
そしていよいよ本題へ。この時、ちょっとためらいを見せたジョディにさらに興味を引かれて「ん?なになに?」と思っていると、”I am single.(私は独身です。)” どっと笑う聴衆。するとジョディも「冗談やねんけど、あんまり冗談じゃないかも」と意味深な発言をして、ついに核心に触れます。
「ずっと前からカミングアウトしてるから今更やけど」という感じで、必要以上に反応されないよう、さらっと告白。
ここでプライバシーに対する理解を求めます。
彼女が本当に伝えたいことは、同性愛者やということではありません。冒頭で感謝を伝えた映画関係者だけでなく、ジョディにとって最も大切で愛しい人たちにも心からの感謝を伝えることです。ここまでの流れで、すでに会場とは共通の認識が共有できているので、初めて彼女は安心して元パートナーや息子たち、そして母親に感謝の思いを伝えます。ジョディを含め、うるうるする人続出。
涙を拭った後は、また元のジョディ節に戻り、一気に締めくくりへ。言いたいことを言い切って、表情も晴れ晴れしているように思います。
日本語訳はこちらで一部紹介されていました→ ジョディ・フォスター、功労賞のスピーチの中でゲイであることを告白。#ゴールデン・グローブ – 中村明美の「ニューヨーク通信」| RO69(アールオーロック)
スピーチ中、私が最も印象的だったのは、2人の息子です。どちらも母親を見る目が尊敬と愛情にあふれていました。ジョディの伝えたいことはきっと息子たちにしっかり届いたんやろうと思います。
彼らの父親は公表されていませんが、Daiky Mail 紙によると、2人が21歳になった時にジョディ・フォスターは父親が誰であるかを告げることにしているようです。
Jodie Foster: Gay actress ‘to tell sons who their father is when they turn 21’ | Mail Online(2013年1月)
長男チャールズ(Charles)が14歳、次男キット(Kit)が12歳ですから、まだしばらくかかりそうですが、この記事によると、どうやら父親は名プロデューサーのランディ・ストーン(Randy Stone)の可能性が高い様子。ランディ・ストーンも同性愛者で、2007年に心臓まひ(heart failure)のため他界してはります。2人の息子には「ランディおじさん(Uncle Randy)」として親しまれ、一家の父親的存在だったそう。同性愛者の権利を守る活動家でもあった彼が、ジョディに公の場でのカミングアウトをずっと勧めていたようです。
また、ジョディは元パートナーのシドニー・バーナード(heart failure)とは映画『ジャック・サマースビー(Sommersby)』(1993)の制作で出会い、2008年に別れるまで14年間共に過ごしていました。実は2007年にも一度、ジョディはスピーチの場で “My beautiful Cydney,…” と言っていますが、レーガン元大統領を狙撃しようとしたジョン・ヒンクリー(John Hinckley)含め、過去にストーカーたちに悩まされた経験があったので、基本的にプライベートはあまり人に知られないようにしていたようです。今回のスピーチはかなり緊張したのではないかと思いますが(だから無理してテンションも高かったのかもしれません)、強い意志と決意と、そして大いなる愛にあふれたスピーチに、私も感動しました。
ちなみにスピーチの後、思わせぶりな発言を受けて「ジョディ・フォスター引退説」も流れましたが、
Jodie Foster says she is not retiring. “I could never stop acting. You’d have to drag me with wild horses. No, I’m not retiring.”
— Borys Kit (@Borys_Kit) January 14, 2013
ということで、ハリウッドの記者が引退説を否定しています。それにしてもジョディ・フォスター、50歳には絶対に見えません。
※アイキャッチ画像:by Tom Sorensen [CC-BY-SA-3.0], via Wikimedia Commons