「シアトルで働く」をテーマにしたパネル・ディスカッションに登壇しました

今から約2週間前、世界四大会計事務所(Big Four)の一つであるデロイト・トウシュ・トーマツ(Deloitte & Touche LLP )シアトル事務所にお邪魔してきました。目的は、2つのイベントに出席するためです。


Deloitte

まずは、こちらの NPO 法人『iLEAP(アイリープ)』が主催するパネル・ディスカッション。『iLEAP』は、新たな視点を持ったリーダーやグローバル人材の育成を目指すリーダーシップ・プログラムを提供している団体です。

将来海外で働くことを視野に入れて短期留学中の大学生及び若手社会人に向け、『シアトルで働くとは』というテーマで、三人のパネラーの一人として話してきました。

あとのお二方は、Deloitte & Touche LLP シアトル事務所で唯一の日本人駐在員として勤務されている公認会計士の佐藤淳さん、そして大学卒業後日本で2年間働いた後に社会人留学し、現在はキャリア教育を軸に幅広い活動に関わっていらっしゃる田中雄一郎さん。お二人とは普段から親交があるので、私はパネラー初体験だったのですが、自己紹介以外は思ったよりリラックスしてお話できました。

以下、受けた質問と、それに対する回答をダイジェストでご紹介したいと思います。

<Q. 日本とアメリカの働き方の違いで気づいたことは何ですか?>

田中 – 仕事を中断してみんなでラジコンで遊んだり、バランスボールに座って仕事をしていたりして、勤務中の雰囲気はカジュアル。ただし解雇が簡単なため、シビアな一面も。働きながら大学に通う社会人も多い。

佐藤 – シアトルのビジネスマンは定時には帰ることが多いが、家族と夕食を取った後、家で仕事をする人も少なくない。ただ、ニューヨークだともっと働くだろうし、アメリカでの地域性はあると思う。また、実力主義で、「結果は出なかったけれども、がんばったね」というような評価はなく、結果だけで客観的に評価される。ネットワーク社会で、スモールトーク(ちょっとした世間話)が社内ネットワークや仕事につながったりすることも多い。

– 女性視点でカルチャーショックだったのは、こちらの女性の出産後の職場復帰がとても早いこと。日本だと産休が1年くらいあるが、こちらは赤ちゃんの首がまだ座らない出産後2、3ヶ月頃から復帰してくる。女性のキャリアに対する意識が高く、男性も帰宅時間を早めるなどして積極的にサポートしている。

補足:アメリカのビジネスマンの帰宅時間は、本当に早いと思います。夕方のラッシュアワーが午後3時過ぎくらいから始まって、午後7時過ぎに収束することからも、帰宅時間の早さが伺えると思います。以前マイクロソフトのメインキャンパスを訪問したことについて書きましたが、午後3時半ぐらいだったにも関わらず、社員があまりいませんでした。その分、朝は午前6時台からけっこうバスに人が乗っていたりします。勤務時間を前倒しにして、家族との時間やプライベートの時間を確保しようとする人が多い傾向にあります。

<Q. 日本で準備しておけば良かったと思うことはありますか?>

田中 – パブリック・スピーキング(人前で話すこと)。あとは英語よりも人間力。人間力とは、人を惹きつける力であり、コミュニケーション能力のこと。怖がらずに人に話しかけることが大事。

– 英語の勉強に力を入れる以上に、日本のことをもっと知って来れば良かった。スモールトークの話もあったが、話題のきっかけとして日本のことはよく聞かれる。スモールトークを発展させてチャンスにつなげるためにも、話せるネタは多く持っておいた方がいい。

佐藤 – 自分の国のことを知らないと比較もできないので、そういう意味でも日本のことを知っておくことはとても大事。

補足:私がこのブログでいろんな話題を取り上げているのも、自分の会話のネタを増やすためだったりします。日本語で理解できていないことは、英語でも到底伝えられません。会話のレベルをアップさせることが、英語力のアップにもつながると私は信じています。

<Q. 学生時代に熱中したことはありますか?その頃現在のような姿は想像していましたか?>

田中 – 学生時代は体育会の部活に所属していて、毎日野球の練習をしていた。また、その頃から海外で働くことに漠然と憧れを抱いており、商社などを志していた。今のような自分は想像していなかったけれども、海外への憧れは常に持っていた。

佐藤 – 学生時代は体育会系のテニスサークルの幹事をしていたのと、公認会計士試験の勉強をしていた。親や兄が海外駐在、海外留学の経験者だったので、小さいころから、いつか海外で働きたいと漠然と思っていたし、社会人になってからも変わらず思っていた。

– 学生時代はバックパッカーで、あちこちの国をめぐっていた。まさか将来海外に住むことになるとは思っていなかったが、バックパッカーの経験があったからこそ、新しい土地に入ってもすぐに馴染んで行動することができたと思う。

<Q. 海外に来て良かったと思うことは何ですか?>

– 日本にいた頃より自分らしく生きられていること。日本では、大学に入学するまでいわゆる “レール” の上にきちんと乗っていた。でも、何となくみんなが同じ方向を向いていることに違和感があり、就職活動に失敗した時、その違和感がますます強くなった。海外に来たら、一気に開放された気分になって、今はのびのびしている。自分は海外の方が合っていると思う。

田中 – 人それぞれ自分らしい生き方があると実感したこと。シアトルで自分の夢や目標に向かって働く人々を取り上げるインタビューサイト『Story of My Life』を運営する中で、こうしなければいけない、という枠組みに捕われずに生きている方々にお会いし、人生は自由で、自分がやりたいことをやって良いんだなと思った。

佐藤 – 日本のことをより好きになったこと、日本人としてのアイデンティティが強くなったこと。日本がよくなるためにはどうすればよいのかを考える時間が増えた。

<Q. 日本の強みはなんだと思いますか?>

田中 – ブランド力。日本製のものは信頼性が高いし、日本食やアニメなどの価値も、アメリカでは高く認められてきている。

佐藤 – こつこつ取り組むこと。緻密なこと。例えば、精密機器であるカメラは、ほとんど日本製のカメラがアメリカで使われている。

– ホスピタリティ(おもてなし)。日本のホスピタリティの質は世界一だと思う。海外から日本に行くと、毎回日本のサービスの良さに感動する。観光などでも日本のおもてなしをもっとウリにできると思う。

<最後に一言>

田中 – 自分が正しいと信じる道に進んでください。自分の人生に責任を持って生きることで、どんどん未来を切り開いていけると思います 。

佐藤 – 色々な人に刺激を受けて、自分のやりたいことは何かを考えて欲しい。その際に、実際に行動しながら、考えることが重要だと思う。考えるだけでは見えてこないことが多い。

– 英語を言い訳にしないで欲しい。私は留学生と接する機会が多いが、行動力を起こす前に「まだ英語力が足りないから」と言ってやめる人が多い。でも実は逆で、行動を起こせば、必死になっているうちに英語力がついてくる。

パネル・ディスカッションでは「日本のことを知っておくことが大事」と佐藤さんも語っていらっしゃいましたが、実は佐藤さんはこちらで若手日本人が教養を身につける場として月に1度『シアトル若手勉強会』を開催しておられます。

現在は招待制で、私も招待いただいているのですが、その8月の勉強会がパネル・ディスカッション後に同じ会場でそのまま行われたので、そちらにも引き続き参加してきました。私が前回参加したのは6月で、その時は歴史問題がテーマでしたが、今回のテーマは『知的財産権について』。毎回その道のプロが2名キーノート(基調講演)を行い、私たち参加者が自由に質問をするという形式になっています。

今回のキーノートは、前半に弁護士の岡田次弘さん、後半にパナソニック株式会社米国パテントエージェントの石原身友希さんを迎え、知的財産権について法律の観点から理解した後、企業での知的財産権の活用や問題について学びました。

特に私が面白いと思ったのは、ものづくりと知財マネジメントの話。ものづくりにおけるライセンス料の支払いは大きいため、それを逆手にとった戦略を取る企業が紹介されていました。たとえばインテル(Intel)は、高利益を出すチップの内部構造を営業秘密にして守り、チップを組み込むマザーボードという中間材を開発してそのノウハウを台湾メーカーに提供。「パソコンが普及すればするほどマザーボードが売れる→マザーボードが普及すればするほどインテルのチップが売れる」という仕組みを作り出したのです。インテルはそのようにして製品開発と知財マネジメントを巧みに組み合わせ、莫大な利益を生み出したそうです。

日本ではアメリカに比べてまだ知財の活用が遅れているそうで、アメリカでは目に見えないもの(アイデア)も財産として認識する一方、日本では目に見えるもの(製品)を重視する傾向があるそう。その考え方の違いは「サービス」という言葉の捉え方にも表れていて、日本では「サービス」は無料で提供するものという意味合いが強いのに対し、アメリカでは「サービス」という目に見えないものに対しても商品としてリスペクトし、対価を支払う考え方が強いと聞いて、私はちょっと目から鱗でした。

弁護士さんから特許庁の職員、企業の特許担当の方まで、その道に詳しい方々もたくさん来ていて、高度な質問や議論が飛び交いまくっていたこの勉強会。”若手” といっても30代〜40代が多く、向上心や勉強意欲の高い方々ばかりで私は毎回ついていくのに必死ですが、海外にいるからこそこうして日本語で高い教養を身につけられる場があるのは本当にありがたいです。

日本人が少ない分、世代や業種をまたいで日本人同士の交流が活発なところも、海外に来て良かったと思うところの一つかもしれません。